コラム記事

ハラール認証商品輸出のパイオニア「東亜食品工業」の東南アジア輸出戦略とは

東南アジア市場では日本食の認知が日々向上しており、小売店の日本食コーナーの充実ぶりはもちろんのこと、マレーシア国内ではクアラルンプールを中心に日本料理を提供するレストランの出店も増加傾向となっています。

その日本食の中でマレーシアでも人気のメニューの一つが、「うどん・そば」。天ぷらやチキンカツとの相性も良く、ローカルからの支持も高いのです。

今後も伸び続けるであろう「うどん・そば」市場のポテンシャルにどこよりも早く気が付き、ハラール認証を取得して東南アジアのムスリム市場進出に成功した企業があることをご存知ですか?

兵庫県・姫路市に本社及び製造拠点を構える東亜食品工業株式会社様です。今回のインタビューでは、彼らがハラール認証を取得したきっかけやその後の営業活動、輸出を成功させる上での考え方などを、代表取締役社長の井上位一郎様から教えていただきました。

ハラール認証取得のきっかけ

実は弊社では40年ほど前から北米市場への輸出に取り組んでいました。しかしながらアジアへの進出は遅れていたため、人口増加が見込まれる東南アジア市場へ乾麺を売り込みたいと考え始めたことがきっかけです。

また国内市場において人口減少に伴うマーケットの縮小は明確ですし、価格競争や原材料高騰という背景もあり、事業の新しい柱が欲しいと考えているタイミングでもありました。

そのような展望を携えて実際に現地視察に行ってみたものの、驚きの光景を目にすることになりました。小売店の棚には既に多くの日本食品が陳列されており、我が社は既に後発のポジションであると分かったのです。

小売店見学で理解したことは、価格競争が激しい点。その中に後発隊として入っていくためには何かしらの差別化が必要だと感じました。当時は日本食コーナーにハラール商品はなかったため、今後大きな市場となり得るここ東南アジアマーケットで、ハラール認証の商品があれば価格競争から脱却できるのでは?と考え出したことがきっかけです。

日本と東南アジアの物価の差はありつつも、富裕層や日本食に興味がある層が一定数いることは理解していました。また、同じタイミングで東京オリンピック誘致やインバウンド市場に関する話も出てきた時期でしたので、東南アジアへの輸出に合わせてインバウンド需要も狙うべく、ハラール認証取得を決断しました。

ハラール認証取得時の苦労は?

ハラール認証取得にあたりどこの認証団体を選択するか、という点の決定が非常に難しかったです。

認証取得以前にFSSC22000を取得していたので、食品安全の仕組みや管理体制は事前に構築できていました。そのため、ハラール認証の管理自体は我が社として問題はないと考えていました。

ハラール認証団体によって基準が異なるため、我が社の商品作りや考え方とマッチした団体を選ぶことに苦労しました。そもそもどのような認証団体があるのかということも把握していませんでしたので、まずは団体を調べることからスタート。その後各団体の代表に直接お会いして相談したり、セミナーに参加して理解に努めました。

そのような経緯を経て、我が社は単なるハラール認証ではなく、日本の商品としての食品安全や美味しさを実現した上でハラール性を担保にするという考え方に、理解と賛同いただける団体を選ぶことにしました。

認証取得で原材料の課題は?

ハラール認証取得に際して、原材料については特に課題はありませんでした。先程お伝えした通りFSSC22000を取得していたので、食品安全の仕組みや管理体制は事前に構築できています。賞味期限についても輸出向け設計が全社的な取り組みとなっていますので、特に問題はありませんでした。

認証を維持する上で大変なこと

ハラール認証に関する苦労としては、社内で私の考えを浸透させることの維持継続の点が挙げられます。

ハラール認証の取得を通じて、ムスリムに向けた責任を正しく理解する必要があると考えています。ハラール認証を取って売上だけを狙うというビジネスライクな考え方では彼らに理解はしてもらえません。ビジネスの部分ももちろん大事なのですが、まずは社員にムスリムの本質的な部分まで理解してもらうことに注力しました。

認証取得はゴールではなく、ムスリム市場で多くの方々に美味しく食べてもらうためのパスポートであると認識しています。しかしながら、パスポートを持っているだけでは市場には入れません。そこで大事なことが自社の営業努力です。

ハラール認証を取得したからと言って商品が売れるわけではなく、あくまでスタート地点に立つ権利でしかないと認識しています。

ハラール認証取得後の営業活動

先述の通り、我が社では40年程前から北米市場への輸出を開始しました。一方で東南アジアを中心とするアジア市場への輸出は10年前という時間軸となり、北米市場とは異なる視点で東南アジア市場を見ています。

具体例として、東南アジアの特性やニーズの違い、日本食の浸透度合いの違い、それを考えて提案していくことが大事だと考えています。当然ですがマーケットに足を運ぶこと、どのような商品が支持されているかを知る、調理のニーズ、現地に行って話をする、売り場を見る、ということを定期的に実践しています。これらは全て、自身の肌で感じないと分からないことです。

認証取得でチャンスを得たエピソード

展示会でハラール認証商品を探す海外バイヤーは予想以上に多く、バイヤーから直接に声を掛けられる機会が増えたと実感しています。そして、それがきっかけでハラール認証商品以外の商品が売れた事例も数多くありました。

ニーズはこちらが決めることではなく現地のお客さんが決めること、と理解しています。しかしながら東南アジアへの輸出を考えた場合、ハラール認証の有無は大きな線引になると確信しています。ハラール市場に入る資格がないとチャンスすら巡ってこない、ということになりますのでハラール認証は今後も維持していきますし、そのためには営業活動を通じて売上を作る取り組みが必須です。

シンガポールでの営業活動を通じて、弊社では想像していなかった新規ルートに採用された事例があります。日本では見たことがないのですが、当社の「日本そば」がなんとケバブストアでトッピングの具材として採用されたのです。

現地や東南アジアでも多くのハラール認証のそば商品が販売されていますが、日本スペックの品質と味を気に入っていただいたと捉えています。日本の商品の食品安全や美味しさを実現した上でハラール性を担保にする、という考え方に理解と賛同をいただいた団体でハラール認証を取得して本当によかったと実感した出来事でした。

マレーシア市場をどう捉えていますか?

マレーシアという市場は我が社にとって非常に魅力的です。ハラール市場を抜きにしても、現地では華人や外国人を対象に日本食の一定のニーズがあります。現状、日本食は飲食店並びに小売店においても華人がメインターゲットであるということは事実ですが、ムスリムマーケットの購買力向上や日本食ニーズも増えていると感じています。

マレーシアの7割弱の人口を占めるムスリム市場を考えると、日本の食品市場にとってはまだまだ手つかずのマーケットであるとポジティブな認識を持っています。日本の食品は安全で美味しい商品であるということを伝えていきたいですし、人口ボーナス期が向こう数十年続くマーケットとして期待もしています。

輸出を実現させる上で大事な3つのポイント

輸出事業の中で実際に学んだ3点を紹介したいと思います。

1.情報発信の重要性
日本食を求める層は世界中に一定数いることは間違いありませんし、その数は間違いなく増加しています。しかしながらミクロの視点で見てみるとまだまだ少数派であると言えますが、だからこそチャンスがあるのだと前向きに捉えています。

そういった背景を理解しながら、彼らの日常食として認められるためにはどのような情報が必要か?どのように情報を発信すれば彼らに届くのか?を考えて行動することが大事です。昨今ではオンラインによる情報発信が主流ですが、弊社ではオフライン(=営業活動を通じた情報発信)に特に注力しています。

2.営業活動
輸出事業をなんとしても伸ばしたい故、売上が取れるのであれば、、、と考える方も少なくないでしょう。しかしながら、我が社では売り急いで安売りはしないことを基本としています。結果を求めて焦ると価格に走りがちとなり、国内外の安価商品と競争になることは避けられません。また適正売価でなければ事業として長期で成立しませんので、自社商品の価値を正しく理解し、マーケットに正しく伝えていくことが大事だと考えています。

3.品質
日本人が食べて美味しいという商品であれば世界で戦える。それは同時に輸出という商流上、当然価格が高くなることも意味しています。しかしながら、売価を抑えるために品質や味を落としては本末転倒と考えています。

私は輸出を通じ、日本の味や高い品質を求めている層があることを確認していますし、今後も必ず増えていくと確信しています。当社自慢の味とクオリティを世界中の方に届けることで、さらに日本食のプレゼンスが高まると捉えています。

弊社に依頼された理由を教えてください

輸出を成功させる上で、「マーケットを知らないことには戦えない。どういう商品があるのか見ないと分からない。そういうデータ収集は必要だからそのためには現地情報が大事」だと考えています。

Arima Food Labさんがハラール認証取得メーカーの出身者で東南アジアへ輸出を継続している、という話を食品業界の仲間から聞き、連絡したことがきっかけです。

自身でマレーシアを訪問して小売店や飲食店を回れば良いのでは?という意見もあるでしょうが、的確な市場をピンポイントで効率良く回り正しい情報を収集するためには、現地の方を頼ることがベストと判断し、依頼しました。

市場調査と市場視察サービスの感想をお聞かせください

クアラルンプールとセランゴールを中心としたローカル/日系小売店と麺を扱う飲食店の視察を2日間実施しました。実際に現地マーケットを見て驚いたことは、思った以上に自社商品が販売されていた点です。ライバル企業の売り込みの状況も知ることができましたし、次の一手を考える材料として非常に有意義な機会となりました。

東亜食品工業様が利用されたサービスはこちら。
こちらに代表・井上様からの感想を掲載していますのでご確認ください。

今後の戦略

弊社の輸出事業は全方位的に、地域を問わず伸びています。今後も注力市場であり、そしてまだまだ成長していくと期待しているのが東南アジア市場です。

現地での日本食レストランの増加を背景に、レストラン市場向け需要で輸出を拡大させることが今後の戦略として重要だと考えています。そして、そこに注力することで小売向けの売上にも貢献するというシナジーも期待しています。

ハラール認証取得を検討されている方にアドバイス

まずは認証を取得することをおすすめします。

ムスリム市場に参入する上でハラール認証というパスポートをまず手に入れて、実際に現地に行ってみる。そうすることでしか見られない景色というものは確実にあります。私自身が大事にしていることは「やらない後悔よりやった後悔」という姿勢です。

日本には様々なハラール認証団体がありそれぞれ特色も違ってきますので、認証取得に関してはできるだけ多くの団体に直接お会いして相談されることをおすすめします。

インタビューを終えて

今回は、北米を始め海外各国に輸出の実績がある乾麺メーカー東亜食品工業の井上様にお話を伺いました。

ハラール認証取得からその後の営業活動、そして現地での販売までムスリムへの理解や尊敬とビジネスを上手に両立された取り組み事例の紹介は、これから認証取得を検討されている方だけではなく、認証取得後に輸出に挑戦したい企業にとっても有意義なインタビューと言えるでしょう。

井上様がおっしゃる通り、ハラール認証はマーケットへ参入するパスポートであり、それを持っているだけでは売れるということはありません。この言葉は、私自身がハラール商品を携えてマレーシアを始めとする東南アジア諸国に営業に回った中で感じたことでもあります。

その後の販売面をしっかりと考えるためには、まずは現地を訪問し、日本食マーケットを小売と飲食店の両面からしっかり把握するということが大事です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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