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マレーシアのご飯を知る | ご飯から学ぶ民族や宗教事情

東南アジアのほぼ中心に位置するマレーシア。日本人の移住先として年代を問わず人気が高まっている国です。

ご紹介したいスポットや文化は多々あれど、やはり多くの人を惹きつけている大きな理由はマレーシアの多様性に富んだ美味しいご飯です。今回の記事では、マレーシアの豊かなご飯事情について解説します。

バラエティ豊かなマレーシアご飯概要

多民族が暮らすマレーシア。主たる民族はマレー系。そして中華系、インド系、少数民族はニョニャと呼ばれるミックスやサバ州・サラワク州の先住民等々。ここで全てをご紹介することは難しい数の多民族で構成されています。

食文化はその多民族の象徴とも言うべく、バラエティ豊か。民族ごとに継承した料理はもちろんのこと、複数民族が融合したミックス料理などこちらも分類がなかなか難しいジャンルとなっています。

マレー料理であればココナッツミルクやチリを使ったスープやカレー、中華料理なら麺や点心などからお酒や薬膳を使用したもの。インド料理なら粉の練り物やスパイスを使用したカレーが代表的ですが、食文化のミックスと進化を楽しめるのがマレーシア。例えば元は中華料理だったのでは?と思うようなマレー料理を人々が楽しむ光景も見られ、まさにご飯を通して多民族共存の縮図を見ることができます。

四大マレーシアご飯

マレーシアではどのようなご飯が食べられているのでしょうか。先述の通りマレーシアの多民族全てを語ることは難しいため、今回は基本となるマレーシア四大ご飯の概要を解説します。

マレー系料理

マレー系マレーシア人は人口の約70%を占め、基本的にイスラム教徒となります。そのためイスラムの戒律に則ったハラールの基準に沿った食事となり、豚肉やアルコールを使わない点が特徴です。

時折マレー料理とマレーシア料理を混同する方がいますが、マレー料理はイスラム教徒が食せるマレー系民族由来のもの。マレーシア料理は他民族を含めたマレーシア郷土料理全般、と覚えておくと良いでしょう。

代表的なマレー料理

・ナシルマ(Nasi Lemak)

ココナッツミルクで炊いたご飯にピーナッツや揚げた小魚などを添え、甘辛いサンバルソースを和えていただくマレーシア人のソウルフード。民族を問わず人気だが、発祥はマレー料理。

・サテー(Satay)

スパイスでしっかりマリネした肉を炭火で串焼きにした、マレーシア版焼き鳥。鶏肉、牛肉、山羊などが一般的。甘辛なピーナッツソースをつけていただく。

・チキンカレー/カリアヤム(Kari Ayam)

ココナッツミルクとハーブやチリを加えて煮込むカレー。日本のカレーよりもサラサラで、鶏肉は骨からすると取れるくらい柔らかく煮込む。

ココナッツミルクを多用し、辛みのメインはチリを使用。東南アジアのバニラエッセンスとも呼ばれるパンダンリーフで香り付けをすることも特徴です。そして最も大切なのが、ドライチリとおろし玉ねぎで作る辛いソース、サンバルです。マレー料理にはこのサンバルソースが欠かせず、味に対しても皆さん非常に厳しいです。

中華系料理

ひと言でまとめることが難しいマレーシアの中華料理。現在マレーシアには人口の約23%となる中華系マレーシア人が暮らしていますが、多くは19世紀に中国大陸から渡った移民の子孫であり、ルーツは広東、客家、潮州、福建と多岐に渡ります。それぞれ言葉や文化、食生活も少しずつ異なることもマレーシアの中華料理を多様に、そして独自の進化を遂げた要因です。

代表的な中華料理

・バクテー/肉骨茶(Bak kut teh)

薬膳スープで豚肉を煮込む鍋料理。中国大陸にはない中華料理で、移民として渡った中華系の労働者達が食べ始めたことが起源とも言われている。

・チキンライス/鶏飯(Chicken rice)

茹でた鶏肉、そしてその茹で汁で炊く風味あるご飯を共に楽しむ。たまり醤油と酸味のあるチリソースを薬味にし、茹でたもやしと共にいただく。

・チャークイティオ/炒粿條(Char kway teow)

幅広の米麺を、エビや卵、ニラなどを加えてオイスターソースなど濃い味の調味料で炒める麺料理。

マレー料理との決定的な違いは、豚肉と料理酒を使用できること。そういう意味でもバクテーはマレーシアでの中華料理の代表と言っても過言ではないでしょう。味付けも醤油ベースのあっさりとしたものも多く、マレー料理より辛さはかなり和らぐことが特徴です。

インド料理

人口の約7%を占めるインド系マレーシア人。19世紀英国統治時にインドより移り住んだ子孫で、その多くは南インド出身です。少数ながらイスラム教徒やキリスト教徒などもいますが、ヒンドゥー教徒が多いため基本的には牛肉と豚肉を使用しない料理がメインとなります。

代表的なインド料理

・バナナリーフカレー(Banana leaf curry)

バナナの葉の上にご飯とカレー、そして野菜の惣菜やピクルス、揚げ物などを盛り付けて混ぜながらいただくインド式定食。

・ロティチャナイ(Roti Canai)

油を練り込んだ生地を薄く層にして鉄板で焼き上げるパイ食感の料理。味はプレーンでも甘い具が挟まっていてもカレーがソースとして添えられる。今や国民的朝ご飯だが、発祥はインド料理。

・ナシカンダー(Nasi Kandar)

数種類のカレー、鶏肉やイカの唐揚げなどが並ぶ中から好きな具材をご飯にかけたワンプレートご飯。その昔インド系が多く暮らしていたペナン島発祥で、もともとは天秤棒(Kandar)で担ぎながら売られていた。

辛いイメージがあるインド料理ですが、マレー料理とは辛さの種類が違うことが最大の特徴です。マレー系の辛さのメインはチリですが、インド系の辛さはチリと合わせてブラックペッパーも多く使用されています。

ニョニャ料理

16世紀に中国大陸からマレー半島に移り住んだ男性がマレーシア先住の女性と結婚、家庭内で双方の食文化がミックスされたことで生まれたニョニャ料理。料理名は子孫の男性をババ、女性をニョニャと呼ぶことに由来しています。主にマラッカやペナン島で発展した食文化で、まさにマレー料理と中華料理の融合と言える味わいが特徴です。

代表的なニョニャ料理

・ニョニャラクサ(Nyonya laksa)

マレーシアのご当地ラーメン的存在の麺料理ラクサですが、ニョニャラクサのスープはココナッツミルク、レモングラスやスパイスが豊富で辛くて濃厚。エビやたまご、魚のすり身など具の多さも特徴。

・ニョニャクエ(Nyonya kuih)

もち米などを蒸して作るカラフル生菓子。ココナッツミルクやパンダンリーフを多用し、もちっとした食感は和菓子にも似ている。ひと口サイズのものが主流で食べやすい。

文化の融合によって生まれたニョニャ料理。食材は中華料理によく登場するものが多いのですが、味付けは一転してココナッツミルクやサンバル、チリなどのマレー料理寄りとなるため、地味な見た目に反して口に運ぶと驚く方も多いです。マレー料理に使うことのない豚肉メニューが登場することも大きな特徴で、二つの食文化のいいとこ取りと表現されることも納得です。

その他色々マレーシア料理

これまでご紹介した民族の料理以外にも様々な少数派のご飯があるマレーシア。解説は省きますが、一例をご紹介。

・マラッカ/ポルトガル料理(ポルトガル×中華×マレー)

・マラッカ/クリスタン料理(ポルトガル×マレー)
・サバ州/カダザン・ドゥスン族料理

・サラワク州/イバン料理

宗教とご飯の関わりについて

多民族が暮らすマレーシアではそれぞれの民族ごとに宗教が分かれ、それは食生活にも大きく影響します。ここからは、マレーシアでの食事シーンで注意を払うべき点について解説します。

先述の通り、マレー系はイスラム教を信仰し豚肉やお酒等を禁忌とします。また、インド系の多くが信仰するヒンドゥー教徒が牛肉を食さないことはすでにご説明しましたが、ベジタリアンであるインド系も多く、全ての肉を食べないという方もいます。

そして中華系はどうでしょう。お酒を嗜むし豚肉も食べるので食のタブーはないのでは?と思いがちですが、実は中華系は熱心な仏教徒であることも多く、その場合は牛肉を食べないルールがあるため注意が必要です。

と、軽く触れただけでもこれだけの制約がある食事シーン。このような事情から多民族が混在する食事会の場合は必ず、ハラールもしくはそれに準ずるノーポーク等の基準を掲げる店であるか、牛肉が提供される店ではないか、などを考慮して店選びをします。

大変と感じる方もいるかもしれませんが、これはマレーシアでは常識的な感覚となります。マレーシア人の暮らしは日本と比較して信仰がセットで営まれることを意識すること。そして、お互いの宗教と戒律に沿った生活スタイルを尊重することが大切です。

民族で異なる味の好み

今回マレーシアの四大ご飯の概略を紹介しましたが、同じ「マレーシア人」であっても民族で食のルーツや嗜好はかなり異なる、とお分かりいただけたでしょう。

これはマレーシアで飲食事業進出をする際に重要な視点で、どの民族やエリアをターゲットとするかによって味やメニュー内容等をしっかり見極める必要があるということです。

マレー系であればハラールもしくはノーポーク、ムスリムフレンドリーであることは大前提としながら、辛い味付けや甘辛いもの、デザート等も甘さ強めが好まれること。一方中華系であれば、辛さは控えめかつ薄味を好み、甘いものや冷たいものも避ける傾向が強いヘルシー志向という具合です。

とは言え、3にて記載したようなマレーシアのご飯事情、味の好みの違い、ハラール/ノンハラール等の禁忌がある食文化であることを理解した上であれば、さほど難しくはないと感じます。

まとめ

今回の記事では、マレーシアのご飯文化が他国よりも細分化されており、それこそが今のマレーシアの豊富な食文化を作り上げることとなった土台である、という視点で概要をお届けしました。

それぞれの民族の代表料理はご紹介しきれないくらい多数ありますので、ぜひマレーシアを訪れていただき色々と食べてほしいのが本音ですし、実際ご自身で現地の食文化を体験していくことで、多民族ゆえの豊かな食文化を様々な視点で観察することができるでしょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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