コラム記事
10.62023
ハラール認証は東南アジアへの食品輸出を目指す上で必須か?
マレーシアをはじめとする東南アジア諸国の小売店では、多くの日本製食品を目にします。私が住むクアラルンプールのある地区で展開されている日本食コーナーでは、10本ほどの棚が全て日本の商品で埋め尽くされているという充実ぶり。シンガポールでも同様に日本食の人気は高く、日系小売店などの参入もあるほどです。
東南アジアではムスリムの比率が高いこともあり、これからの海外輸出で東南アジア市場を目指す場合、ハラール認証の取得を検討される企業も多いことでしょう。と同時に、本当に認証は必要なのか?認証を取得すれば売れるのか?という不安をお持ちの方は多いと思います。
結論から言ってしまうと、「取り扱い商品次第」というのが私の答えです。今回の記事では、その理由に関して弊社の東南アジアでの経験を元に説明します。
弊社の実績
- 2020年11月よりマレーシアへ輸出開始
- マレーシア主力ローカル販路で定番導入(最大6SKU)
- シンガポール、ブルネイ、インドネシアで定番採用
目次
ハラール認証=売れるは幻想
ここ数年、マレーシアで日本のハラール商品を見かける機会が増えていましたが、大半の商品は市場から消えていった現実があります。ハラール商品販売に注力している日系小売店がチャレンジしていますが、継続して販売されている商品はごく一部。そして、残念ながらローカル販路で見る商品については、生き残っているものはほんのひと握りです。
まさに見出し通りの結論なのですが、ハラール認証を取得したからと言って売れることは100%ないと断言します。ハラールマーケットは全人口の1/4(=20億人)であるムスリムが対象になるのですが、全員がターゲットになるような簡単な商売は存在しないのです。
日本のマーケットは人口減と言えど、未だ1億二千万人の人口を誇る世界有数の巨大マーケット。しかしながら、あなたの日本国内事業はその全人口を対象にビジネスを展開しているでしょうか?性別、地域、年齢など細分化されたターゲットを対象にしたビジネスを展開しているはずです。
ここマレーシアでも、日本市場に対して幻想を抱いている企業が実は少なくありません。「日本=黄金の国なので高価であっても何でも売れる」と、チョコレートの販売を依頼された経験があります。
もちろん彼らは日本の熾烈なマーケット競争の現場を知りません。フランスやベルギーのチョコレートは当然のこと、日本の大手メーカーのチョコレート菓子と競争することになるのです。価格で攻めるのかもしれませんが、日本のデフレ状態を考えると日本国内製造品の商品の方が安い場合も実は多いのです。 話を戻します。そう、ハラール認証=売れる、は幻想なのです。
「売れた≠売れている」を理解する
「どういう意味?」と思われるかもしれませんが、説明を聞いていただけると「なるほど」と納得されるはず。
日本から海外へ輸出をする場合の商流は以下が一般的。
【メーカー】→【国内商社】→【現地商社】→【現地小売店】
メーカーは国内商社に販売した段階で売上が立ち、契約上の支払いサイトで振り込まれます。大半の国内商社は現地商社から前金で振り込まれた後に出荷します。しかしながら、問題は現地小売店と現地商社の取引条件です。マレーシアではコンサイメント契約が一般的で、これはつまり「委託販売」。
このような背景から現地商社はキャッシュフローと在庫リスクを一番抱えるポジションになるため、売れる・売れやすい商品(=大手メーカーの人気商品)中心の品揃えになる、というわけです。
そのため、大手メーカーの人気商品や日本料理で必須の調味料関係が日本食コーナーの大半を占めています。
国内商社に販売しても、それは海外の現地で売れたわけではなく日本国内の取引で売れただけなのです。目安としては、半年間で2~3回注文が継続、その後も定期的に注文が上がって初めて、「売れている」と言えます。
しかしながら、販売が厳しくても品揃えとして必要という判断になれば売価を意図的に低く設定したり、常にセール価格で販売される事もあります。そのような事情を踏まえ、定期的に売価や賞味期限のチェックを現地で実施されることをおすすめします。
以前実施した食品メーカー経営者同行の店舗視察では、商品の売価が日本国内卸価格とあまり変わらない、という異様な安さに設定されていたケースもあり、「これで売れていても(適正な価格で)売れているとは言えないので、商社を通じて売価修正を依頼する」ということもありました。
ハラール認証=ムスリムマーケット参入のパスポート
では、ハラール認証はどう捉えると良いのでしょうか? 結論は、「ムスリム市場参入のためのパスポート」と言うことです。日本は今現在、自国内に巨大なマーケットがあるため食品の輸出については海外のメーカーと比較するとかなり劣後しています。(大手日系メーカーは独自で現地製造している企業も多く、その場合は別格ですが)
マレーシアでマーケットリサーチをするとわかりますが、韓国や中国は当然のこと、オーストラリアやニュージーランドのASEAN諸国の商品の大半はそれぞれの国のハラール認証を取得していたり、マレーシアでリパックしてハラール認証を取得し販売しています。
特にローカルでは製造できないものや、ローカルではそのクオリティが出せないものの需要が高くなり、私が毎週購入している牛乳はオーストラリア産原料をマレーシアでパックし、マレーシアのハラール認証を取得している商品です。
ASEAN諸国の食品メーカーは海外輸出を前提に事業を推進しているので、ハラール取得はここ東南アジアを攻める上で大事なパスポートとなるのです。
ハラール認証商品があれば販路は広がる
意外とご存知ない方が多いのですが、ハラール認証商品はムスリム限定の商品ではなくマレーシアで誰でも食べる(飲む)ことができる商品という位置づけなので販路は広がります。
食のインフラに近いような商品(例えば牛乳、調味料、原材料など)は人種を問わず誰でも購入しますし、そのような商品はほぼ全てハラール認証マークが付与されているという特徴があります。
マレーシアにはノンムスリムの国民も3割ほどいるので、全てがハラールという訳ではありませんし、そのような層に向けた商品も現地では当然販売されています。例えば華人向け伝統行事である中秋節を祝う際に振る舞われる月餅はノンハラールのものも実は多く、このような商品は販路が限定されます。
弊社が販売する日本ハラール認証の菓子ですが、ムスリムの居住が少ないエリアの小売店で定番採用されており、その店舗ではターゲットが主に華人と外国人駐在員になります。その反面、ムスリムの居住が多い地域で展開する小売店からは「ハラール認証があるから品揃えとして置いてみたい」という声で採用いただきました。
ハラール認証があれば確実に販路の幅は広がるのは事実ですが、まずは現地で需要があるかどうかという点が大前提になると感じます。私の場合は、菓子という比較的売りやすく現地でもニーズのある商品を取り扱ったため採用に繋がったと理解しています。
ハラール認証を取得しない選択肢は?
「ハラール認証がないものの需要はどうなのか?」という疑問を持たれる方もいるでしょう。実はマレーシアの小売店で販売されている日本製の食品の99%以上がノンハラールのものです。つまり、ハラール認証がなくても需要はある、ということです。
それらの商品はマレーシアの人口の約2割を占める華人(中華系)マーケットや日本人が顧客対象となり、その多くは大手メーカーの菓子、調味料、加工食品などです。これらの商品は大手メーカー品ゆえに価格競争力がある商品が多く、また有名メーカーということで現地での人気も非常に高いという特徴があります。
ノンハラール市場を対象にマレーシアで展開していくと言う選択肢も多いに有効です。ローカル及び日系のほぼ全ての販路に定番採用されている日系大手飲料メーカーの商品もあるので、商品次第では十分にチャンスがあると言えます。お隣の国シンガポールは人口の6割以上が華人という背景からも、多くのノンハラール日本食が販売されています。このような他国も視野にするのも良いでしょう。
「ハラール認証取得を検討している」という企業向けに、ハラール認証取得の前に確認するべき大事な5つのポイントについて詳しく解説していますので是非一読ください。
ハラール認証がなくても需要があるもの
では、「現地では具体的にどのようなノンハラール商品が売れているのか?」という疑問をお持ちの方もいるでしょう。マレーシアで支持されているノンハラールの商材は下記の通りです。
- みりん
- 料理酒
- 味噌
- 米
- 醤油
- カレールゥー
- 米菓
- ジュース
- チョコレート菓子
もちろん他にもまだありますが、今回は代表的なものをピックアップしました。ポイントは、日本食の調理(さしすせそ系)で使用する原材料です。またハウス食品をはじめとした日本製造のカレールゥーも大変人気があります。
菓子では、米菓やチョコレート菓子がそのクオリティや現地で代替品が少ないという背景からも非常に人気です。大手メーカー品で日本でも人気があるものはカテゴリ問わず現地でも人気がありますが、特に米菓でいうと七味やわさび味の歌舞伎揚げが人気。
マレーシアをはじめとした東南アジアのムスリムは辛い味付け(スパイス系)を好みますので、そのような商材をお持ちの方にはチャンスがあるかもしれません。
まとめ
今回の記事では、ハラール認証は東南アジアへの食品輸出を目指す上で必須か?について解説しました。
ハラール認証を取得したからと言って現地の売り場で顧客が継続的に購入するということはありません。あくまでムスリム市場参入に使えるパスポートを得るだけであることを認識し、現地のニーズを知った上で本当にその商品にハラール認証が必要なのか?と言うことも冷静に判断しなければなりません。
現地小売店の日本食コーナーではハラール認証がない商品の取り扱いが大半ですが、日本ハラール認証取得商品が実際に小売店の棚で販売されているのも事実。ハラール認証取得には労力も費用もかかりますので、まずは現地でどのような需要があるのかをまずは知ることをおすすめします。
弊社ではマレーシアのローカル主力小売店を中心とした現地小売店の視察ツアーを実施しており、さらに別途サービスで現地主力商社との商談会もセッティング可能です。
ご興味がある方は是非ご連絡ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。