コラム記事
10.32023
マレーシアの税金 | 個人を対象とした税を日本と比較して検証
マレーシアで就職、もしくはマレーシアで会社設立や駐在を予定している方にとっての悩みの一つが税金でしょう。
日本は経済社会における構造変化の影響もあり、全世代型社会保障の構築に向けてさらに所得税も引き上げられる可能性があります。「日本では可処分所得が増えない、海外に目を向けなければならないのでは?」という悩みをお持ちの方も多いはず。
一方ここマレーシアは、未だ人口ボーナス期の真っただ中。2022年のGDP成長率は8%台という高い数字を誇り、マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia)は今後の経済成長について楽観的な見通しを示しています。
「成長市場に身を置くことで、個人のスキルアップや事業拡大のチャンスをつかみたい」など、前向きな方にとって海外市場は魅力的に違いありませんし、私自身もそんな思いを抱いてマレーシアに来た一人でもあります。
当然ですが、私はマレーシアで居住者として個人課税し、法人として法人所得税を納めています。今回の記事では、”マレーシアの税金とは?” と言うお題に日本との比較を交えながら、日本人そして日本企業として注意したい点を実体験に照らし合わせながら解説します。
目次
個人に関する税金
マレーシアで就労を目指す方は現地採用もしくは駐在員としての雇用形態が大半ですので、まずは個人に関する税金の話から進めましょう。
居住者・非居住者の判断基準
海外移住の際、多くの方は日本での住民票を抜き、それにより日本では”非居住者”という扱いになります。非居住者となったあなたは日本では課税対象ではなくなり、移住先の国にて課税が発生します。
実はマレーシアという国は納税について日本と同じく”属地主義”を採用しています。これは「国籍を問わず、その国に居住する者に課税」というものです。
日本国内における居住者・非居住者の判断は諸条件があるものの、一般的に日本人であれば「どの国に居住しているか」によって判断されます。なお居住者・非居住者の基準に関してですが、具体的に定めた明確なルールはありません。
国税庁のHPでは、以下のように説明されていますのでご覧ください。
居住者とは、日本国内に住所があるかまたは現在まで引き続いて1年以上居所がある個人をいいます。居住者以外の個人を非居住者といいます。非居住者は、日本国内において生じた所得(国内源泉所得)に限って課税されます。
個人の区分 | 居住者 | 非居住者 |
定義 | ・日本国内に住所を有するもの ・日本国内に現在まで引き続き1年以上居所を有する者 | ・ 日本国籍を有していない者 ・ 過去10年以内において、日本国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である者 |
課税所得の範囲 | 国内および国外において生じたすべての所得 | 国外源泉所得以外の所得および国外源泉所得で日本国内において支払われ、または国外から送金されたもの |
少し堅苦しい話になりましたが、個人的な経験で言うと“住民票を抜いてマレーシアで就労すればマレーシアでの所得はマレーシアでのみ課税対象”ですので、あまり心配されなくてもよいでしょう。
住民票を日本に残したままの渡航は二重課税?
一つ気をつけておきたいことが、日本国内での住民票を残す場合です。
大半の方は住民票を抜いた上でマレーシアに渡航されると思いますが、家庭や仕事の都合で住民票を残したままという方も実はいらっしゃいます。
この住民票というものは厄介で、上述の日本が採用する属地主義の観点から、海外の所得や利益など全世界での所得が課税対象となります。
しかし日本は2023年10月現在、153カ国の国々と両国間で生じる二重課税の排除、課税所得の範囲を定めた租税条約を締結しており、マレーシアもこの条約の対象です。従って不当な税金を納める必要はありません。
個人に課せられる税金を日本と比較
前置きが長くなりましたが、ここからはマレーシアにて個人所得に対して課税される一般的な税金を日本と比較しながら説明します。
住民税
日本:平均年収450万円の場合 約20万円/年
マレーシア:なし
住民税は、その市区町村の住民が地域社会で使用される公共サービス費用などを分担するための税金です。ありがたいことに、ここマレーシアでは住民税はありません。
マレーシア人にはないけれど、外国人は課税対象なのでは?と思われるかもしれませんが、外国人も住民税を払う必要はありません。外国人でもマレーシアの公共インフラを無償で利用できることは非常にありがたいことです。
所得税
マレーシアの企業に属しマレーシア国内で得た給料を対象に、所得税が課税されます。マレーシアでは日本と同じく累進課税制度を導入しておりますので、両国の課税を表にしてみました。
マレーシアの所得金額 (RM) | 課税率 |
0-5,000(15万円) | 0% |
5,001-20,000(60万円) | 1% |
20,001-35,000(105万円) | 3% |
35,001-50,000(150万円) | 6% |
50,001-70,000(210万円) | 11% |
70,001-100,000(300万円) | 19% |
100,001-400,000(1200万円) | 25% |
400,001-600,000(1800万円) | 26% |
600,001-2,000,000(6000万円) | 28% |
2,000,000以上 | 30% |
日本の所得額 (円) | 課税率 | 控除額 |
1,000-1,949,000 | 5% | 0 |
1,950,000-3,299,000 | 10% | 97,500 |
3,300,000-6,949,000 | 20% | 427,000 |
6,950,000-8,999,000 | 23% | 636,000 |
9,000,000-17,999,000 | 33% | 1,536,000 |
18,000,000-39,999,000 | 40% | 2,796,000 |
40,000,000以上 | 45% | 4,796,000 |
以上の税率チャートから日本の平均年収である450万円で各国の所得税を算出してみました。(1RM=30円で計算)
日本:47万円
マレーシア:RM20,000 (約60万円)※
マレーシアの場合、確定申告で行われる学費、保険料、医療費などの控除が充実しているため実際の額はこれより低くなりますが、意外と日本の控除が所得額低減に効果があるということが分かりました。
ちなみにこの税率は、マレーシア国内で”居住者”と認められた日以降に限り上図の通りの課税となります。居住者については、1年の半分すなわち183日以上マレーシアに滞在して初めて認められます。
182日以下の滞在日数では”非居住者”扱いとなり課税率は最上位の30%です。かなりな高額になると感じるでしょうが安心してください、過剰分は年末調整での申請で還付されます。
消費税
消費税とは商品の販売やサービスの提供に対してかかる税金で、ご存じの通り日本では2019年に10%へ引き上げられ、その際に「軽減税率制度」が実施されました。
ここマレーシアでの消費税はと言うと、実はゼロです。消費税はありません。マレーシアでは2015年から導入された消費税を2018年6月に廃止。そして2018年から売上税(5%もしくは10%)とサービス税(6%)が導入されました。
日本:8%及び10%
マレーシア:なし
マレーシアの売上税の対象は、簡単に説明すると以下の通りです。
- 登録事業者によりマレーシアで製造され、販売や使用あるいは処分される課税対象品
- マレーシアに輸入される課税対象品
サービス税の対象は下記のものが一般的です。
- レストラン
- 弁護士、会計士、エンジニア、コンサルタント
- ITサービス、マネジメントサービス、人材紹介
- 警備業、保険、広告、国内線のフライト
レストランでは多くの店舗でこのサービス税に追加してサービスチャージを10%ほど加算しますので、お会計の際はレシートをチェックされることをおすすめします。
贈与税と相続税
先に結論をお伝えすると、マレーシアでは贈与税及び相続税はありません。マレーシアで資産家の家系が資産家で在り続ける理由は、この点が大きいでしょう。ちなみに日本では控除はあるものの、10〜55%の割合で課税されるため手元に残る金額は最大で半減してしまいます。
日本:10〜55%
マレーシア:なし
これについては、「海外移住によって将来の贈与税や相続税で節税できるのではないか?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら国税庁のルール改正が年々厳しくなっており、相続人と非相続人の両者が海外を基盤とした生活を10年以上継続した場合のみ非課税となる、という厳しい制約があります。
所得の源泉が日本に依存する場合はこの対象にならないというルールもあり、日本でおとなしく納税する以外に選択肢はないのが大半の方の状況ではないでしょうか。
資産運用課税
日本人でもマレーシアで資産運用は可能です。給料口座を開設した銀行で証券口座の開設はもちろん、FXや証券取引、仮想通貨に特化したサービスを提供する企業で口座開設も可能です。
また資産運用は株や投資信託だけではなく、不動産を介した家賃収入や売買による収益を得ることも可能なため、マレーシアは日本人にとって副収入を得る意味でも魅力的な国であることは間違いありません。では、これら資産運用で得た収益に課される税金はどのようなものでしょうか?
日本:FXや株式投資 20.315%、仮想通貨 総合課税
マレーシア:FX、株式投資、仮想通貨、配当 なし
マレーシアで不動産を所有する日本人の方にあまり出会う機会がないため、マレーシアの不動産営業マンに確認をしました。どうやらマレーシアでは家賃収入は総合課税対象とのことですので、所得税の計算方式で算出されます。非居住者の場合は、残念ながら税率30%対象となります。
また不動産売却で生じる譲渡益税に関してですが、これは保有期間によって課税率が異なります。日本人として物件を所有する限りは、売却益は1〜5年目までは30%で6年目以降は10%課税されます。
マレーシアの資産運用の一つとして、EPFと呼ばれる日本でいうところの年金積立制度システムがありますが、日本人は会社からの補填が充実していないケースや駐在員の場合は企業として積立の対象外という話をよく聞きます。特に駐在員の赴任期間は3~5年が一般的ですので、リスクを取った運用はあまりおすすめしません。
まとめ
今回の記事では、マレーシアでの個人の税金についてご紹介しました。現地で就職する、駐在員として赴任する、現地で起業する、それぞれの立場があると予想しますが、現地で収入を得る上で”納税”は平等に課せられた義務です。ご自身の滞在プランを踏まえた上で納税にも関わってくる資産形成などもチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
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最後までお読みいただきありがとうございました。