コラム記事

マレーシアで開催される日本行事「盆踊り」がローカルに人気の理由

常夏の国マレーシア。首都のクアラルンプールやペナンにて、日本の文化を感じることができるお祭り「盆踊り大会」が開催されていることをご存じでしょうか。

コロナ禍前は約2万人規模の参加者だったマレーシアでの盆踊り大会ですが、今や一日で国内外から約5万人が集まる大規模なイベントになっています。

なぜ日本のお祭りである盆踊りがマレーシアで開催され、地元の方々にも受け入れられているのでしょうか?今回は、親日家が多いと言われるマレーシアで盆踊り大会が何十年も続く理由について解説します。

マレーシアの盆踊りの歴史

マレーシアで最初に日本の盆踊り大会が開催されたのは、遡ること1977年。そう、なんと45年以上もの歴史があるのです。

開催のきっかけはマレーシアで暮らす邦人の子供達への文化継承、そしてマレーシア人への日本の文化の紹介がメインではあったものの、子供のみならずマレーシアで暮らす邦人達の郷愁の思いもあったでしょう。日本人会や日本人学校、在マレーシア日本大使館が主体となり開催されていました。

最初は小規模でしたが年々その規模は拡大。昨今はアニメやJ-POPの人気も追い風となり、出店などはローカル企業の参入も増えています。

2024年は7月20日(土)にシャーアラムにあるシャーアラムスポーツコンプレックス(Kompleks Sukan Negara Shah Alam)にて開催を予定していて、規模や参加者もさらに増加する見込みです。

本格的な祭りの雰囲気

外国で開催されるマレーシアの盆踊り大会ですが、その雰囲気はとても「本格的」。筆者が初めて参加した際に衝撃を受けたのは、会場にそびえ立つ大きな櫓(やぐら)でした。

近年の日本のお祭りでは櫓を目にする機会は減りましたし、仮にあったとしてもその周りで盆踊りをしている人々も少ない印象ですが、マレーシアでは多くの参加者が櫓のまわりで日本民謡に合わせて見よう見まねで盆踊りを踊っている光景が見られます。

中には、日本の浴衣を身にまとう人やお面をつけている人も。マレーシアはイスラム教徒が多いため、多くの女性は浴衣姿にヒジャブという髪の毛を覆うスカーフを身につけています。そのため、日本とは違う異国の雰囲気を味わうことができます。

マレーシア在住の日本人だけでなく、盆踊り大会に集まったさまざまな国の人々が日本の民謡に合わせて盆踊りを楽しむ姿は日本人としてはなんとも嬉しい光景だったことを鮮明に覚えています。

本格的な屋台

盆踊り大会ということで、さまざまな出店がおいしそうなメニューを提供しています。

ローカル企業や事業者、そしてもちろん日系企業も積極的に出展していますが、特に日本企業が提供するメニューは本格的な屋台式メニューが多く、その点も盆踊り大会の人気の理由と言えるでしょう。日系小売店が提供するハラール和牛の串焼きや、食品メーカーが提供する本格的なお好み焼きは非常に人気で、開店と同時に行列ができるほどです。

また、ローカルが好む味付けに対応した屋台が多いことも特徴の一つ。例えば、たこ焼きのタコをマレーシア人が好む食材のチキンやエビに変え、彼らが好きなスパイシーなソースをかけるという斬新なマレーシア流の屋台も年々多くなっています。

盆踊りに出展する企業に対しては「アルコール提供と豚由来の原材料使用NG」というルールがあり、それゆえイスラム教徒が安心して飲食できる環境があることも人気の理由と言えるでしょう。

親日家が多い国民性

もともとマレーシアは親日家が多い国として有名です。

実際に私が出会ったマレーシア人の方々は日本に対してポジティブな印象を持つ人が多く、その理由としては日本が生んだゲームやアニメなどのソフトコンテンツが大きく貢献していると言えるでしょう。その影響もあってか、日本語習得意欲を持つ若年層も年々増えていて、マレーシアの大学では日本への留学を提供するプログラムもあるほどです。

こういった背景から、慣れ親しんでいる日本文化が目の前で展開される盆踊り大会は日本を訪れずとも体験できる絶好のイベントだと言えるでしょう。

盆踊り大会の課題:宗教リスク

多くのマレーシア人に愛され続けているこの日本の盆踊り大会ですが、多国籍・多文化だからこその宗教問題が浮上した過去があります。

マレーシアはイスラム教徒が人口の約64%を占め、イスラム教を国教として制定する国です。そんなマレーシアで、日本の祭りである盆踊り大会が開催されることに声を上げたのが、マレーシア・イスラム党(通称PAS)。2022年、PASの幹部で宗教担当であり首相府相も務めるイドリス・アハマド氏がこの盆踊り大会を仏教行事とみなし、イスラム教徒が参加すべきではないと主張したのです。

日本での盆踊りのはじまりは、仏教の「念仏踊り」だと言われています。イスラムの訓えでは踊ることや霊を崇拝することで先祖を思い出すことが奨励されていないため、盆踊りそのものが危険視されたのでした。また、イスラムの訓えではムシュクリ(多神教)は禁止されているためその点も信仰の純粋性に疑問を呈し、国民へ盆踊り大会への参加をとり止める声明を発表したのです。

この声明を受け、「長年開催されているこのイベントは、マレーシアでの文化の多様性や多種多様な民族の祭りを楽しむ自由を認め、宗教的ではなく文化的なイベントとして認識するべきだ」という異論を唱える層も少なくはありませんでした。

この件については、マレーシア人それぞれが個々の判断で参加を決めるという平和的な形で収束しました。しかしながらこのような宗教が絡む問題は、イスラム教の国マレーシアで再度問題視されるリスクは残っていると言えるでしょう。

食のハラール対応

この盆踊り大会、参加の目的は実はおいしい日本食!という人も少なくありません。

しかしながら、ここはマレーシアですから日本で開催されている盆踊り大会と全く同じメニューを出すわけにはいかないという事情があります。

前述の通り、マレーシア人の約64%がイスラム教徒ですから食のハラール対応は絶対条件。イスラム教徒は「豚は食べず、お酒は飲まない」など、宗教上の戒律があることは皆さんご存じの通りです。マレーシアで盆踊り大会を開催する際は、この「ハラール」 のルールを遵守することは避けては通れないのです。

そして、このハラールのルールは異教徒が想像する以上に厳しいもの。例えばソースや調味料に禁止されている食料のエキスが使用されている時点で、イスラム教徒の人々は口にできません。

お祭りには定番とも言えるたこ焼きも日本製のたこ焼きソースを使用できない事情があります。日本製のたこ焼きソースの成分に豚肉エキスが使用されており、アルコール成分のある酒精も含まれているためです。

マレーシアのレストランや小売店ではハラール対応した原材料を使用することが一般的で、そのルールはお祭りであっても例外ではありません。

そんな事情をカバーするためにも、盆踊り大会に参加する日本企業は食のハラール対応に努力をしています。たこ焼きには定番のおたふくソースを作るOTAFUKU SAUCE MALAYSIA SDN. BHD.は現地でハラールのJAKIM認証を取得したたこ焼きやお好み焼きのソースを販売していて、この盆踊り大会でもハラール原料を使用したメニューを提供しています。

この盆踊り大会のみならずマレーシアで何かしらのイベントを開催する場合は、食のハラール対応は必須です。「豚やアルコール”のみ”の不使用」という概念が浸透しがちですが、表面だけを見るのではなく本質的な部分までの理解が必要であることを意識し、食品事業を展開の際は宗教と食について慎重に向き合っていくことが大切です。

まとめ

今回の記事では、マレーシアで開催される盆踊り大会の人気の理由について解説しました。

親日家が多いという理由からも、多くのマレーシア人が盆踊り大会に対してポジティブなイメージを持っていることは確かでしょう。しかしながら、マレーシアはイスラム教の国という背景もあり、非イスラム教徒である日本人がいかなる活動を行う上でも宗教起因理由からのリスクは避けて通れない点として認識するべきです。

もしこの7月にマレーシアにお越しになる際は、ぜひ世界最大規模の当地の盆踊り大会にご参加いただき、いろいろな視点からマレーシアを感じていただければ幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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