コラム記事
4.232024
【東南アジアハラール市場】日本食のポテンシャルと展望:在マレーシア5年ハラール食品専門家が徹底解説
世界でも人気のある料理、「WASHOKU」。代表的な調味料であるSHOYUやMISOなども既に多くの国で認知されています。私が暮らすマレーシアでも日本食は非常にとても人気で、日系/ローカル問わず多くの日本食店が出店しています。
皆さんもご存じの通りマレーシアやインドネシアはイスラム教を中心に成り立つ国で、国民の多くがイスラム教徒となることから食事に関してはハラール/ムスリムフレンドリーが一般的。そのため、多くの日系食品メーカーがハラール認証に対応した食品を積極的に輸出しています。
今後、この流れはどのように変化をしていくのでしょうか?今回は在マレーシア5年のハラール食品専門家が、東南アジアのハラール市場についてそのポテンシャルや展望を各地域ごとに解説します。
ハラール≠ムスリム市場の理解
イスラム教徒は世界人口の約1/4を占め、今後その割合が増えてくるという予想は大方間違いない、と私も考えています。しかしながら、「ハラール認証を取得すれば良い」という訳ではなく、あくまで「ハラール認証があれば、ムスリム市場に『も』参入する切符を手に入れることができる」という理解がおすすめです。
実はここマレーシアでも、ノンハラールレストランでもハラール認証原材料を使用しているというお店は非常に多く、決してハラール商材=ハラール市場というわけではないのです。例えば私が販売しているハラール認証の菓子ですが、マレーシアでの主な顧客はローカルの中華系と日系駐在員、つまり日本人です。そもそも日本食ということで高級スーパーの日本食コーナーでの展開が中心になり、また価格的にも一般のローカルスーパーは販路の対象にもなりません。もし「ハラール認証を取得したので、ローカルのムスリム市場での販売に特化したい」と考えていたのなら、どこの販路でも販売することは厳しかったでしょう。
このような背景からも「ハラール認証を取得するとムスリム市場『も』狙うことができる」というやや大枠で捉えることが重要になります。後述しますが、認証を取得したからと言って売れるわけでは決してなく、あくまで商流を理解した上での総合的な需給がマッチしてこそ、まず販売にたどり着くことができます。
では、ここからは東南アジア各国の日本食のポテンシャルや展望について解説します。
東南アジア
東南アジアには多くのイスラム教徒が住んでいることをご存じでしょうか?インドネシアは数の面から見て最たる代表例ですが、マレーシアやブルネイ、そしてシンガポールにも多くのイスラム教徒が暮らしています。そのような事情から食のハラール対応が非常に重要となる東南アジアを国別に、ハラール市場の状況を説明しましょう。
マレーシア
人口約3350万人のマレーシア。国民の約64%がイスラム教徒という背景もあり、ハラール対応は食のインフラとして非常に重要な位置づけです。外資系大手チェーン店は当然JAKIMというマレーシア政府主導のハラール認証を取得しており、SUKIYA(すき家)など日系の大手チェーン店もJAKIM対応を進める企業が増加しています。
しかしながら、ハラール認証対応は維持費などコストの問題で中堅規模以上の企業の取得が主流。街中のフードコートや屋台などの個人事業主経営店舗では、基本的に「ムスリムフレンドリー」としての運営スタイルが一般的です。この場合、「ムスリム経営=安心できる」というスタンスです。
冒頭でもお伝えした通りマレーシアでは日本食の需要が高く、ハラール/ノンハラール問わず多くの飲食店が進出。日系/ローカル問わずさまざまな企業が運営しています。また、おたふくソースやキユーピーなどの日系食品メーカーがマレーシアでハラール対応した商品を製造販売。マレーシアを中心に東南アジア諸国の日本食需要を支える構図ができあがっています。
ノンハラールレストランでも日系のハラール原材料(日本産/マレーシア産問わず)を使用していることからも、今後も安定したハラール商材の需要があると言えるでしょう。最近ではローカル産の冷凍麺なども充実していて、これまで日本からの輸入のみに頼っていた飲食店にとっては物流面や価格面でも選択肢が増えている一方、日本企業にとっては製造拠点のローカル化も検討する必要があるかもしれません。
小売市場では日本商材の特性から販売されるチャネルは高級スーパーに限定され、大きな売上が見込める環境ではありません。しかしながら、市場のニーズとマッチする商材であれば安定して販売を継続できる環境はあります。代表的な例で言うと、ひかり味噌のハラール味噌や東亜食品工業の乾麺(うどん・そば)は日本人駐在員や中華系マーケットでも需要があり、主力小売店で長年に渡り販売されています。
ノンハラール商材ではあるものの、日系大手メーカーの価格訴求商品は高級小売店のみならずローカル小売店やコンビニエンスストアでも販売され、数千万円規模の売上実績があるメーカーもあります。東南アジアでは「価格」は非常に重要なポイントで、現地での売価RM10未満が一つの基準です。
インドネシア
人口約2億7千万人を有する東南アジア最大の人口を誇るインドネシア。その約86%がイスラム教徒ということもあり食のハラール対応は必須です。マレーシアと同様、大半の大手チェーン店はハラール対応をしています。
インドネシアでも日本食の需要は拡大中で、宗教の背景からもハラール認証商材の利用は必須事項。一部の日本製ハラール商品やマレーシアやタイで製造されているハラール商品の主な販路として非常に大きなマーケットとなっています。しかしながら、インドネシアにはBPOMという国の登録期間への申請および承諾を得た後に輸入が許可される仕組みがあり、長いものでは1~2年かかることもある点が悩ましい問題として挙げられます。
小売店での販売に関しては日本製造ハラール商品の売価と現地での購買力の兼ね合いもあり、一部の商品のみ(乾麺や味噌)を現地の売り場で確認することができました。BPOMの背景もあり小売店導入もなかなか進んでいないようで、現状では日系の小売店を中心にノンハラールの「さしすせそ」系調味料や菓子などの大手メーカーの主力商品が中心の品ぞろえです。
そして、インドネシアでも飲食店向けの需要は非常に重要であると言えます。チェーン展開している日系飲食店に入り込めると発注量も大きく、実際にマレーシアのハラール食品メーカーもインドネシア飲食チェーン1社からの受注のみでコンテナ単位で輸出するなど、非常にボリュームのある商売ができる市場です。業務卸を得意とするメーカーにとっては今後も注視するべき市場であることは間違いありません。
シンガポール
人口約564万人の小国ですが、東南アジアのみならずアジア全体においても経済的に成功かつ成長している国シンガポール。実は人口の約20%がイスラム教徒ということで、ハラールのニーズは確実に存在しています。
多くの日本食レストランも古くからシンガポール市場に参入。2023年にはゼンショーグループのSUKIYA(すき家)がMUISハラールを取得し全店舗でハラール牛丼の提供を開始するなど、ハラール対応のニーズは今後も増加の傾向が見受けられます。
一方で、現地の主力小売店の日本食コーナーではノンハラール商品がほぼ100%を占め、この点はローカル系/日系小売店を問わずの状況です。
シンガポールについては飲食卸向けのハラール需要が今後も加速することから、業務卸向けハラール商材の需要増に今後も期待が持てそうです。
ブルネイ
人口約44万人の小国ブルネイ。国民の約82%がイスラム教徒というハラール市場で、マレーシアやインドネシアなどのイスラム圏に比べてアルコールに関する制約が非常に厳しく、現地の小売店や飲食店で提供することは不可。そのため、個人消費の名目のみで非ムスリムが持ち込む以外方法がありません。それほどまでにイスラム教の影響力がある国ということがお分かりいただけるでしょう。
ブルネイの小売店でも日本製造の商品が販売されていますが、全てがハラール認証商品ではないのが現状です。しかしながら、ノンハラール商品の取り扱いを段階的に減らす方向性であるという話を現地の商社筋から入手しましたので、今後はハラール認証商品のみが輸入対象になる可能性は大いにありそうです。
商流については日本から直接輸入しているものは一部の生鮮関連商材のみで、その他加工食品などはシンガポールやマレーシアの商社を経由して輸入するのが一般的。シンガポールドルとブルネイドルは等価ですのでシンガポールと同様に高額なものも売れると思われがちですが、小売店はマレーシアのような価格訴求の市場と考えます。
日本食レストランも数社出店し、全てがローカルによる運営です。寿司や丼、カレーライスなどのベーシックな日本食が人気で、週末は在ブルネイ駐在員やローカル富裕層を中心に集客に成功している印象を受けました。こちらのYouTube動画でブルネイの高級日本食レストランを紹介していますので興味のある方はぜひご覧ください。
タイ
タイにもハラール市場はありますが、マレーシアやインドネシアと比較すると相対的に需要は低い市場です。
タイのハラール認証は東南アジア各国のハラール認証機関とも相互認証しているため、ここマレーシアでもタイ製造のハラール認証商品を見かける機会が非常に多いです。また多くの日系企業が進出し、代表例ではグリコはタイのハラール認証を取得したポッキーを東南アジア各国で販売しています。
そのため、タイは「ハラール商品の製造拠点」と言う意味合いが強い国と言えるでしょう。
ハラール認証商品の輸出を目指す上で大事な視点
重要なポイントは、認証取得前に「企業がどの方向性を目指すのか?」をまず決めることです。商品の特性上、輸出がそもそも難しい、業務卸には向いているが小売には向いていない(その逆も然り)など条件が異なるため、冷静に市場を俯瞰して検討されることをおすすめします。
ハラール認証の取得を検討される場合、こちらのコラム記事で詳細を紹介していますので、ぜひご一読ください。認証団体もどこでも良いという訳ではなく、貴社の方向性に合わせた形で販売からの逆算思考で選択することをおすすめします。
まとめ
今回の記事では、東南アジアのハラール市場における日本食品のポテンシャルと展望について、私自身の経験を基に解説しました。
今後も東南アジアでは飲食店を中心とした日本食の需要は拡大するでしょう。そのため業務卸における需要は今後も推移していくと考えられます。しかしながらローカル製造の高品質な日本食材の出現もあり、メイドインジャパンだからという理由だけでは生き残れない環境にも直面しつつあるのが昨今の状況です。
とは言え、チャンスがないわけではありません。日本クオリティが絶対に求められる商材は飲食店に限らず小売店でも存在します。ハラール商品だからと言ってイスラム教徒のみを対象とせず、ハラール対応しているからこそイスラム教徒『も』対象にできるという広い視点が重要です。
弊社では、クアラルンプールを中心として主力小売店およびハラール/ノンハラール飲食店のアテンド視察ツアーを実施しています。マレーシア進出やハラール認証取得を検討される前に、フラットな視点でぜひ一度マーケットを視察されませんか?
最後までお読みいただき、ありがとうございました。