コラム記事
4.232024
海外でも人気の調味料「醤油」:ハラール対応における可能性について考察
海外での日本食への需要は非常に高く、私が在住している東南アジアでも毎年多くの日系レストランがオープンしています。2024年春には、日本の寿司大手チェーン店「スシロー」がマレーシア進出を発表し注目を集めています。
日本食店の進出増は日本食に関連する食材や調味料の需要増にもつながるのですが、中でも圧倒的に高まるのが「醤油」の需要です。醤油を使用した調味料の需要にもつながるため、メイドインジャパンの食材で最も海外需要のあるものは醤油だと確信しています。
ただ、ムスリム市場向けであればハラール対応が必要ではないか?という疑問を持たれる方も多いでしょう。そこで今回の記事では、日本食調味料の代表格「醤油」のハラール対応の可能性について考察します。
結論:飲食業向けは需要が高い
結論からお伝えすると、ハラール醤油の需要は飲食業向けで非常に高いと言えます。
代表例では、キッコーマンやヤマサ醤油を筆頭とした大手メーカーが飲食業向けの醤油市場をすでに抑えています。マレーシアのレストランのバックヤードでも先述メーカーの醤油(20Lサイズなど)を見かける機会は非常に多いため、間違いないでしょう。
またコストパフォーマンスに優れる彼らの原料を使用し、海外の現地工場で加工するという需要もあるなど、非常に手堅いビジネスを展開している印象です。海外で醤油を製造しているローカル企業ももちろんありますが、味やクオリティーの点で差があることは否めず、特に日系飲食店では日本の醤油を支持する声が圧倒的です。
ハラール醤油の飲食市場需要
上述の通り、日系飲食店のバックヤードで日系メーカーのハラール醤油を見かける機会は非常に多く、日本食需要の増加とともにハラール醤油の需要も伸び続けることでしょう。寿司で使う醤油はもちろんのこと、日本食は多くのメニューで醤油を使用するため汎用性という意味でも確固たる需要を抑えています。
東南アジアで今後も伸び続けるハラール市場としては、インドネシアに期待が持てます。またシンガポールはムスリム人口が全体の約2割であるものの、近年ではレストラン向け商社がハラール認証商品の調達にシフトしているため、今後は伸びそうな市場と感じています。
また、フランスをはじめとするムスリム人口が増加中のヨーロッパからもハラール商材の引き合いがあると、ハラール認証取得の調味料メーカーから話を伺いました。今後、飲食店では世界規模でハラール醤油の需要が確実に増加していくでしょう。
ハラール醤油の小売需要
飲食店向けの醤油需要は今後も需要を伸びていくとご紹介しましたが、それでは小売店でのハラール醤油の需要はどうでしょうか?結論を言うと、小売店向けの需要は非常に厳しいと感じています。その理由をこちらで説明します。
まず、海外での日本食は外国商品の扱いになるという点は当然皆さんも理解されているでしょう。そのような商材は、小売店ではジャパンコーナーやオリエンタルコーナーという一画で販売されることが通常です。そしてその一画はほとんどの場合、日本食やアジア食材に特化した専門卸業者が棚を管理しているという特徴があります。
これが大事なポイントなのですが、このようなコーナーの主な顧客は中華系や日本からの駐在員が大半を占めます。専門問屋は小売店とコンサイメントと言う消化仕入れでの契約が一般的です。それゆえ、売れない限り売上を集金することができないという事情から海外の日本食コーナーは大手メーカーの商品(需要と価格訴求品)が多くなるのです。
そしてもう一つ大事なポイントがこちら。マレーシアをはじめとする東南アジアの方々は日本人と比較をすると料理・調理を重要視せず、デリバリーや外食をメインにされる方も多いという事情があります。そして、日本食はある程度知識がある方しか取り組まない料理ということもあり、自主的に調理される方は多くはありません。
日本人や中華系の方をターゲットにする場合はハラール醤油である必要でなく、実際にマレーシアで販売されている日本製の醤油は全てノンハラールです。その他の事情としては、ハラール醤油とノンハラール醤油の圧倒的な価格差が挙げられます。日本のスーパーで販売されている価格訴求品が中心の品ぞろえになるため、マーケットも古くから慣れ親しんだこれらの商材を求める背景があります。
このような事情からも、小売店でハラール醤油の拡大を目指すことは並々ならぬ努力が必要となるのです。当HPのコラム記事でも何度もお伝えしていますが、ムスリム市場は世界人口の1/4なのでポテンシャルがある、ハラール認証を取得したら売れる、といった話は全てポジショントークですのでご注意ください。
ハラール醤油とノンハラール醤油の違い
そもそもハラールとノンハラールの醤油にどのような違いがあるのかわからない、という方も多いのではないでしょうか?
両者の違いは、「認証を取得しているか否か」が結論です。
そもそも醤油は加工食品であるため、輸出を経て現地のレストランや小売店でハラール商品として取り扱いを受ける場合、その国のハラール認証機関と相互認証を締結した認証団体にてハラール認証を取得する必要があります。
ハラール認証を得るためには、認証機関で醤油の製造工程と原材料の確認を行うプロセスが必要です。例え製造工程や原材料に問題がなくても、ハラール認証を受けていない限りその醤油はノンハラールの扱いとなり、基本的には海外のハラールレストランで使用されることはありません。
メーカー側が製造工程や原材料の詳細情報の開示、そしてハラーム原材料不使用の宣言書を現地企業に提出すればハラールとして認められる場合もありますが、この場合は現地の食品メーカーの原材料として使用される場合が大半となるため飲食店では厳しいでしょう。
以上が、ハラールおよびノンハラールの違いです。原材料の視点での区別としてはハラール醤油の場合はアルコールを使用していない、およびコンタミネーションもないことが条件となること。つまり、日本の小売店で販売されている一般的な醤油はアルコールを原材料に使用しているため、そもそもノンハラール醤油となるのです。
ただし、木桶仕込み醤油などの伝統製法で製造される醤油は原材料の面で問題のないものが多く、コンタミネーションに問題がなければハラール認証の取得も比較的容易です。
おすすめの国産ハラール醤油
日本国内で販売されているハラール醤油を紹介しましょう。
三重県の福岡醤油さんは数多くのハラール調味料を製造している調味料メーカーで、ハラールの本醸造醤油を製造しています。
現在、原宿竹下通りの原宿ツーリスト・インフォメーションセンターにてムスリム向けのハラル調味料三点セット(醤油、ポン酢、焼き肉ソース)を販売しています。
またシンガポールのMUJIプラザ・シンガプーラ店のJAPANハラールコーナーでは、ハラール本醸造醤油を中心に焼き肉ソースやポン酢も販売中です。
訪日観光客に人気の原宿は、ムスリムにも人気の観光スポット。日本滞在中に食の悩みを抱えるムスリムにとってこの調味料三点セットは非常に人気があり、購入後飲食店で使用される方やお土産として購入される方が多いようです。
福岡醤油さんのハラール商品一覧はこちら
まとめ
今回の記事では、ハラール醤油の可能性について考察しました。
ご説明した通り、飲食業向けの需要は今後も展開が見込める反面、小売向けは商流や文化的な背景の違いもあり導入自体もかなりハードルが高いという見方が、ハラール市場のマレーシアで4年間食品事業を営んだ経験から得た結論です。
海外輸出の成功パターンは、業務用をベースに小売向け商流も開拓するという二段構えが一般的であり、大手企業はその手法で海外展開を推進しています。小売のみをターゲットにする場合は、しっかり取り組める商社や小売店を見つけることが何よりも重要であり、幅広い国への輸出を実現することでトータルの売上を伸ばす方法が事業化の鍵となるでしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。