コラム記事

日系企業にとって魅力的な投資先であり続けるマレーシア

日本で一般的に「マレーシア」は、どのようなイメージを持たれているでしょうか。何度もマレーシアを訪れている方や移住を経て今はマレーシア通な方も、マレーシアと出会った当初のことを思い出すと、もしかしたら「そういえば当時はよく知らなかった」という方がいらっしゃるのではないでしょうか。

2023年10月時点の外務省在留邦人調査統計によれば、金融・IT分野で東南アジアをけん引するシンガポールは小さな国土に約31,000人、日本でも「ほほえみの国」として安定した認知度のタイには約72,000人もの日本人居住者がいるとのこと。そしてその両国に挟まれたマレーシアは約20,000人と、やや小規模であることは否めません。

しかしながらマレーシアは1980年代から数々のプロジェクトを打ち出し積極的に外資を誘致すると同時に、長年に渡り培われてきた日本との深い関係があります。

日本企業にとって魅力的な投資先であり続けているマレーシア。今回はその背景と実例をご紹介します。

市場としての魅力:経済成長

投資先としてのマレーシアの強みの一つに、穏やかながらも堅実な経済成長があります。マレーシア統計局が2024年1月19日に発表した2023年の第4四半期GDP(国内総生産)の速報値は、前年同期比3.4%増。2023年の通年経済成長率(GDP伸び率)は3.8%となる見込みを示しました。

2022年の経済成長率は8.7%で22年ぶりという高水準に沸いたため、2023年は相対的に低くなり年内は悲観的な論調の報道も見られましたが、2023年は多くの国で前年を下回ることが予想されている事情があります。加えて日本の2023年経済成長率が1.5%となる見通し(2023年12月時点の内閣府発表)であることを思えば、マレーシアの経済は堅実さを維持していると言えるでしょう。

市場としての魅力:環境

戦争・紛争の頻発する地域に比べると東南アジアは比較的安定した地域ですが、それでも内戦状態の国や、軍事政権による政情不安を抱えた国、一般的に治安が悪く駐在員などが気をつけて暮らさなければいけない国はあります。その中でマレーシアの政情は極めて安定していること、常識的な範囲で行動すれば外国人が暮らすうえで治安も及第点に達していて、カントリーリスクが低い国と言えるでしょう。

旧宗主国イギリスの流れをくんだ教育制度、そして近年では海外の大学が積極的に誘致され国内にキャンパスを開いていることもあり教育水準は高い国です。またクアラルンプールなどの大都市では日常で英語が使用されるほど英語教育も一般的なため、外国人にとって言語の壁が低いことも進出企業にはメリットとなるでしょう。

国を挙げて外資を誘致

1981年のマハティール首相一度目の首相就任以来、マレーシア政府は巨大な開発プロジェクトを次々と提唱しており、後継の政権にも引き継がれてきました。有名どころでは「マルチメディア・スーパーコリドー計画」と呼ばれる、新行政首都プトラジャヤ・マルチメディア都市のサイバージャヤを柱に商業・宅地とそれに付随した交通インフラを整備する、広大なエリアの総合開発が挙げられます。空路はクアラルンプール国際空港(KLIA)、海路は交通の要衝マラッカ海峡を抑えたクラン港が整備され物流インフラも整っています。

またマレー半島南端ジョホール州では「インスカンダル計画」が継続進行中。こちらもシンガポールの隣という地の利を生かした州を挙げての開発に、製造業から医療・教育・不動産投資まで幅広い投資を誘致しています。

さらには国内の経済差是正を目的とし、マレー半島北部の西・東両海岸、ボルネオ島側のサバ州・サラワク州でもその土地の特長を生かした開発が行われています。

これらすべての計画で海外からの投資が歓迎されており、経済特区の設定や、対象業種で条件を満たせば税制優遇や雇用面でのインセンティブが用意されています。

なお、イスカンダル計画の目玉の一つ、メディニという地区を原野から開発するプロジェクトには日本の三井物産がマスターデベロッパーとなっています。

「親日国」マレーシア

マレーシアの前身マラヤ連邦がイギリスから独立を果たしたまさにその日に、日本とマレーシアは国交を樹立。1980年代にマハティール首相が提唱した「ルックイースト政策」も現在まで継続しています。日本・韓国という戦後の荒廃からいち早く立ち直り発展した東アジアの国々に学ぶという方針のもと、これまで多くの優秀な留学生が国の支援で日本で学び、政財界の要職に就く「知日派」も少なくありません。

先述のマルチメディア・スーパーコリドー計画のもと多くの日本企業がマレーシアへ投資・進出を行い、一般の旅行者にとってまだまだ遠い国だった時代から政治経済分野で交流が行われてきました。

市街地のモールには大抵日本食レストランや日系の店舗が入っており、都市近郊には日系スーパーのイオンが進出するなど、日本にまつわる看板や商品はマレーシアでは珍しいものではありません。

日系企業 in マレーシア:製造業

マレーシアには多くの製造業が進出し現地工場を構えています。中でも自動車業界には特筆すべき日馬連携の歴史があります。

自国ブランド車を所有・製造する国は今でもそう多くありませんが、マレーシアは1985年というかなり早い時期から政府主導で「Proton」(プロトン)ブランドの国産車を製造しています。このプロトン社は日本の三菱自動車と三菱商事が資本参加。三菱自動車は技術面でも緊密に連携し設立されました。

プロトン社に次いで「Perodua」(プロドゥア)が設立、小回りの利く小型車で急成長しましたが、こちらも日本のダイハツ工業とマレーシア政府との共同出資会社です。

プロドゥア社はUMWホールディングスという老舗の複合企業傘下ですが、このUMW社は総合自動車製造業としてトヨタ自動車と協業、また大手建設機械製造メーカーのコマツとも合弁企業を設立しています。

日系企業 in マレーシア:IT

「マルチメディア・スーパーコリドー計画」の目玉である電脳都市サイバージャヤの開発。このサイバージャヤで1997年という黎明期にいち早く拠点を開いたのは日本のNTTグループでした。以降約四半世紀、サイバージャヤはNTTの東南アジアのハブとなり、2020年にはアジア初のスマートシティ実証実験をサイバージャヤで開始。2023年にはサイバージャヤで6番目となるデータセンターが開設され、自然災害リスクの少ないマレーシアの地の利も生かされています。

イスラム市場のポテンシャル

イスラム教を国教と定め、国民の6割以上がイスラム教徒であるマレーシア。

アメリカの独立調査機関ピュー・リサーチ・センターが2015年に発表した調査結果によれば、全世界にイスラム教徒は16億人。2024年現在では20億人との数字も出ています。同調査では現在世界最大勢力のキリスト教徒も2070年にはイスラム教徒の数と並び、2100年にはイスラム教徒が逆転する見通しを報告しています。イスラム社会は決して看過できない規模で今後も伸長が見込まれ、彼らをターゲットとするビジネスには追い風と言えるでしょう。

期待されるハラールビジネス

イスラム社会をターゲットにビジネスを展開する場合にはイスラム教への深い理解が必要となり、イスラム法を守る必要があります。イスラム法のもとイスラム教徒が日々の生活で順守すべきルールが「ハラール」です。

ハラールについては、弊社のこちらのコラムをご覧ください。

生活すべてにわたるハラールですが、中でも口に入るものや体内に取り込まれるものはハラールを守るべき事柄の筆頭です。具体的には弊社も取り扱う食品をはじめ、医薬品・サプリメント・化粧品などがイスラム法に則り製造・販売されなければなりません。

信仰の根幹に絡むことであるため当然ながら製造・販売側の責任が大きくなりますが、製品がイスラム法に則って製造され、世界中のイスラム教徒が安心して消費できることを保障するのがハラール認証です。

ハラール認証については、こちらのコラムで詳しく説明しています。

マレーシアのスーパーやコンビニエンスストアなどで手にした食品のパッケージを見れば、ほとんどの食品にハラル認証のマークが表示されていることに気づくでしょう。これはシンガポールやインドネシアなどでも同じです。

日本企業のハラール認証取得例をいくつかご紹介しましょう。

お好み焼きソースでおなじみのおたふくソースが2016年にマレーシアにて工場を開設。ハラール認証を取得するまでのプロジェクトの経緯をホームページで公開しています。

また、キユーピーは日本スタイルのマヨネーズをハラール認証を得てマレーシアで製造。2015年からは日本逆輸入も行われています。

牛丼チェーン店で皆さんが真っ先に思い浮かべるであろう吉野家とすき家もハラール認証を取得。マレーシア・シンガポールで店舗を展開しています。

ハラールビジネス最前線たるマレーシア

イスラム教といえば発祥の地である中東諸国を連想する方も多いかもしれませんが、実はイスラム教徒人口が最も多い地域はアジアです。世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシアに加え、インド・パキスタンといった人口大国にも相当数のイスラム教徒が暮らしているのです。

そのような巨大なイスラム教徒人口を擁するアジアの中で、マレーシアはイスラム教を国教とする国であることを強みとし、政府主導でハラール産業の拡大を図っています。製造業で一定の近代化と高品質を達成しているマレーシアの信頼度は高く、マレーシア製の加工食品やお菓子は中東の国々でも広く流通しています。

マレーシア市場に通用しシェアを得られることができれば、広大なイスラム社会への一里塚となり得るかもしれません。

まとめ

今回ご紹介した通り、マレーシアには投資に適した環境が備わっており、国が主導して外資を誘致しています。

加えてマレーシアは多民族国家であり、イスラム教徒以外の国民も多く暮らしています。外国人にも厳しい制約が課されるイスラム教国家もある中で、開かれた精神風土があることも海外からの投資のハードルを低くしていると言えるでしょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

引用元 

外務省 在留邦人調査統計

ピュー・リサーチ・センター”The Future of World Religions: Population Growth Projections, 2010-2050”

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