コラム記事
2.232024
多彩な選択肢 | マレーシアのキャッシュレス事情
近年では日本もクレジットカード以外のキャッシュレス決済の普及が進んでいますが、東南アジアの一部の国々では日本よりもだいぶ早くキャッシュレス決済が浸透していました。中でもマレーシアは先駆けの国のひとつと言えるでしょう。
今回は、マレーシアでメジャーなキャッシュレス決済サービスについて解説。在住者はもちろん、旅行者でもその恩恵を受けられる選択肢がありますのでぜひご注目ください。
目次
Touch ‘n Go eWallet
マレーシア在住日本人の間ではタッチアンドゴー、またはタッチンゴーと称されている「Touch’n Go」は、マレーシアのキャッシュレス環境の草分け的カードです。カードに現金をチャージ(=マレーシアではトップアップと言います)して使うスタイルです。
高速道路料金の決済用として1997年に登場。このカードの登場により、日本のETCレーンのような特設レーンをカードをタッチするだけで通過できるようになりました。
Touch’n Goはその後決済の舞台をバス、鉄道、そして駐車場へと拡大していきました。日本でいうSuicaやPasmoのような交通系カードに近いイメージで、旅行者でも購入できます。
2017年からはTouch ‘n Go eWalletというアプリでのキャッシュレス決済サービスが登場。アプリをダウンロードしてIDを開設し、ネットバンキングやクレジットカードからチャージして使います。すでに所有しているTouch’nGoカードの登録もでき、残高の移動も可能。
このアプリの登場により、支払いの場はコンビニエンスストアやドラッグストア、スーパーなどの小売店へと拡大。支払いの際はQRコードをスキャンする方法と店員さんにバーコードを読み取ってもらう方法の二種類あります。さらにはユーザー間の送金もできるなど、日本のPayPayと操作概念は似ています。
なお、Touch’n Goの元祖利用目的である高速道路での利用には、カードそのもののタッチの他にポータブルのETCデバイスのようなSmartTag(スマートタグ)に差し込んで使う方法、さらにはRFIDというステッカー状のタグを窓に張り付けるタイプへと進化してきていますが、カードをタッチしての料金所通過は2025年までに運用が終了すると発表されています。デジタル化の加速ですね。
GrabPay
マレーシアを代表する配車サービス「Grab」(グラブ)。日本でも配車アプリ「TAXI GO」と提携した配車サービスGrabの緑のロゴを、タクシーの窓に見かけるようになりました。
Grabの出現は交通移動の革命的な出来事でした。マレーシアを含む東南アジアの国々で、タクシーに手を挙げても乗車拒否に遭ったり、メーターもそっちのけの値段交渉を煩わしく感じた経験がある方も多いでしょう。このGrabは、アプリであらかじめルートや料金を確定させ配車してくれるため、これまでの負担を限りなく軽くしてくれました。
そして、今では配車だけではなくフードデリバリーの「GrabFood」としてもおなじみで、そのGrabが提供しているキャッシュレス決済サービスが「GrabPay」です。
外国人旅行者でもパスポート番号で登録が可能で、使い方は多くの電子決済アプリとほぼ同じです。アプリ内のGrabPay Walletへチャージしそこから支払いができ、さらにはポイントが加算されることもGrabPayの特長です。
BigPay
お次は航空会社。BigPayはAirAsia(エアアジア)の提供する決済サービスです。
BigPayの本体はチャージして使うプリペイドカードで、アプリをダウンロードして申請。発行されたカードは後日郵送となるため、在住者で受け取れる居住所のある方しか申し込めません。VISAカードが付帯されているため海外でもチャージ額分まではクレジットカード感覚で使用できますし、ATMで現金を引き出すこともできます。
一方、アプリではチャージや明細チェック、BigPayユーザー同士の送金も可能です。決済・送金だけではなく、保険やローンなど銀行のような金融商品も販売されていて、BigPayは電子決済ツールに留まらないネットバンク路線を進んでいます。
ところで皆さんはエアアジアを利用する際、お手頃運賃を見つけ予約を進めていき、最後の支払いの場面で追加されてくるクレジットカード利用手数料に小さながっかりを覚えた経験はないでしょうか?BigPayカードで支払えば、支払手数料はかからないというメリットつきです。
その他のサービス
日本も交通系カード、nanacoやwaonなどの小売り系カードがあり、スマホ決済アプリもモバイルSuicaに通信系のPayPayやd払いなどとにかく多岐に渡ります。日本人でも全部は把握し切れないほど多様な日本のキャッシュレス決済市場ですが、マレーシアでも先述のサービスの他、多彩なキャッシュレス決済サービスが展開されています。
MAE by Maybank2u
決済業務の専門家である銀行。中でもマレーシア金融最大手、黄色い看板とトラのマークが印象深いMaybank(メイバンク)も、口座所有者はアプリMAE by Maybank2uでのキャッシュレス決済が可能です。
こちらのアプリは「モバイルバンキングアプリに電子決済機能がついている」と言った方が良いかもしれません。メイバンクのSaving口座(普通口座)とセットになっているので、口座の明細や残高確認をしつつその口座からすぐにモバイルウォレットにチャージできます。
支払いにはQRコードを読み込むなど、決済機能の基本的な使い勝手は他のアプリと同様ですが、その場で定期預金にも入金できてしまうのがモバイルバンキングらしさですね。
Boost
マレーシアにも通信系のキャッシュレス決済サービスがあります。元国営の通信会社であるテレコム・マレーシアから分離独立し、傘下にマレーシア最古参の携帯電話会社Celcomも擁するAxiataグループの提供する電子決済アプリ「Boost」です。
マレーシアで最初に登場した電子決済アプリの一つで、2017年誕生とだいぶ古株。多少の変動を見せながらも毎年ユーザー数上位に入る人気のアプリです。
MyMy
日本人にはなじみの薄い、しかしマレーシアならではのサービスをご紹介します。イスラムの教義・思想である「シャリア」(イスラム法)に則った金融取引はイスラム金融、またその業務を行う銀行はイスラム銀行と呼ばれますが、世界初の「デジタルイスラム銀行」を目指す組織がマレーシアにあります。
2018年に立ち上げられたスタートアップ企業で、既に国立銀行から銀行業の許可を得ています。公開されているアプリ「MyMy」は現在はまだベータ版ですが、アプリ内で手数料なしに11種類もの通貨に両替できるなど先進的な構想が発表されていますので、今後に注目したいです。
AEON WALLET MALAYSIA
日本でのイオン利用者がモバイルWAONを勧められるように、マレーシアのイオンにも「AEON WALLET」があります。
マレーシアでのイオンの歴史は古く、当時のマハティール首相の要請に応じる形で現地との合弁会社ジャヤ・ジャスコが第一号店をオープンしたのは1985年。現在では「ダイソー」も含めて60以上のイオン店舗がマレーシア国内に存在しています。
イオンクレジットサービスはマレーシアで1996年に設立されており、マレーシアで金融業を発展させる下地は十分でした。
その他
ここ数年爆発的に成長しているオンラインショッピング業界で特にメジャーなアプリ、LAZADAとShoppeeもそれぞれ「LAZADA WALLET」と「ShoppeePay」というキャッシュレス決済サービスを立ち上げています。
また、アメリカの大手ゲーミング会社Razerとマレーシアで不動産をはじめ多業種に君臨する大企業ベルジャヤ・グループという異色の組み合わせで開発された「Razer Pay」もデジタル世代に受け入れられています。
以上、多彩過ぎるサービスを駆け足でご案内しました。これだけたくさんあるとどれが自分にとってベストなサービスなのか迷ってしまいますが、一点集中型はもちろん、旅・ライフスタイルに応じた使い分けも有意義ではないでしょうか。
マレーシア人訪日客、日本でTouch’n Go eWalletが利用が可能に
ここでひとつ、訪日マレーシア人旅行者にとっての朗報を。
2023年6月15日より、日本のPayPay加盟店舗のうち中国の決済サービスAlipay+(アリペイプラス)が利用可能な店舗では、Touch’n Go eWalletでの支払いができるようになりました。ユーザーがQRコードを読み取る方式での支払いが対象です。
現在海外で使える日本の電子決済アプリはほとんどありませんが、いつか日本のアプリもこのような相互提携によりマレーシアで使えるようになる日が来るかもしれません。
まとめ
海外でのクレジットカード利用は、残念ながらどの国においてもスキミング被害のリスクにさらされていて、マレーシアも例外ではありません。むしろ比較的安全な旅行先というイメージとは裏腹に、スキミング被害に至ってはかなり被害数の多い国とも言われます。そのような事情を考えると、入金した残高分しか使えないプリペイドカードや目の前で決済が完了するアプリの利用はスキミングのリスクを回避してくれます。
旅行で訪れる方も、旅を便利に楽しむ一助として現金とクレジットカード以外の決済方法にチャレンジされてみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。