コラム記事

マレーシアの経済動向について経済指標を用いて解説

ASEAN(東南アジア諸国連合)の中でも特に目立つ経済成長を遂げている国マレーシア。以前は天然ゴムなど二次産業を中心とした製造業ベースの経済が主体でしたが、1980年中盤以降は外資規制緩和の影響も受けて急激な経済成長を遂げました。そして、その後の成長率は平均8%という好景気が数年続いています。

そして、このマレーシア経済にとって中国との関係が非常に重要となることをご存じでしょうか。マレーシア経済は輸出入において対中国の割合が非常に大きいという背景があり、欠かせない貿易国であることは間違いありません。中国は長きに渡ったコロナ対策により経済が低迷していましたが、規制撤廃の方向に舵を切った2023年以降はフルスピードで完全復活。それはマレーシアにとってポジティブな側面であると期待もされています。

今回の記事では、このような背景を踏まえ2023年第2四半期までの最新情報をもとにインフレーション率、為替レートなど、経済に影響を与える様々な要因も含めたマレーシア経済について解説します。

経済成長率(GDP)

はじめに、マレーシアの経済成長率について見てみましょう。

2022年、マレーシアのGDP成長率は民間消費によって支えられ8.7%増を記録しました。この数字は2000年以来22年ぶりの高水準。

しかしマレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia)によると、2023年第2四半期でのGDP成長率は2.9%増。マレーシアは東南アジア内でも GDPにおける輸出の構成比が比較的高く、8割弱が輸出依存です。今回のこの数字の要因は外部需要の減少によるもので、近隣諸国におけるマレーシア商材需要減少の影響を受けたことによります。

一方で国内需要の底堅さは成長率上昇の主な理由の一つとなり、民間消費と企業や政府による投資が下支えとなりました。報酬や給与の増加は家計の支出加速につながり、経済サイクルの好転に貢献したと言われてます。また、政府の固定資産支出や長期国家プロジェクト活動も投資活動の基盤になったと言えるでしょう。マレーシアでは東南アジアのみならず欧米からのインバウンド観光客も回復傾向にあり、今後もマレーシアの国内需要を押し上げる要因になると予想されています。

このように、マレーシアの経済成長は特に輸出依存という外部需要の影響を受けやすい一面がありつつも、国内の需要が堅調に推移しながら穏やかな経済成長を続けています。

インフレーション率

次に、マレーシアのインフレーション率(物価上昇)について考えてみましょう。

2023年第2四半期のインフレーション率は2.8%となり、前四半期の3.6%からの緩和が見られました。この緩和は生鮮食品や燃料の価格が下がったことによるもので、物価の上昇は落ち着いていると言えるでしょう。

価格変動の影響を受けやすい食品や燃料などを除いたコアインフレーション率も減少しましたが、長期平均(2011年から2019年)と比べると依然として高水準です。コアインフレーションの緩和は、主に外食、自家用車やその修理・メンテナンスなどによるものでした。

一般的には前年比2%ほどの物価上昇率は緩やかなインフレであると言われており、先進国の主な中央銀行が目指す適切な数値です。マレーシアはまさにこの「緩やかなインフレ」に近い状況ですので、マーケットが羨む適切な状態と言えるでしょう。

リンギットの推移

多くの先進国が金貨との交換を保証せず、国の信用に依存する紙幣である「不換紙幣」を発行していますが、先進国入りを目指すマレーシアも例外なく不換紙幣を使用しています。

日本円に換算すると、RM1(リンギット)=およそ31.7円です。

USD換算ですとRM1=0.21ドルとなり、RM4.77=1USDです。(2023年11月1日時点)

この半年間で見るとリンギ安・ドル高の傾向があります。これはアメリカ経済の強さと賃金の増加が背景にあり、アメリカ国債の利回りとドルの価値上昇の結果と言われています。

リンギットは実は外部要因に大きく左右されやすい通貨として有名で、2023年第2四半期においても国内の金融状況は世界動向の影響を受けています。世界経済の減速や中国経済の懸念事項の影響もあり、金融市場は低調でした。

また、四半期初めの2カ月間は米国の債務上限危機に関する懸念や、先進国での金融政策の緊縮が続くとの市場の期待により不安定でした。低下した商品価格と世界的な半導体需要も国内金融市場に圧力をかける要因となりました。

このような動向に反応し、2023年第2四半期にはリンギットの価値が5.8%下落。しかしながら2023年8月15日時点の動向では、米国の金融政策が締め付けを終える兆候が高まりリンギットは1.1%上昇しています。

マレーシア中央銀行はリンギットの急激な変動が国の経済に悪影響を及ぼすことを防ぐため、外国為替市場で市場調整を行っています。

将来の見通し

今後のマレーシア経済の見通しについて考えてみましょう。

残りわずかとなった2023年ですが、厳しい外部要因に直面しつつも緩やかな成長を遂げており、盤石な国内需要に支えられていると言えます。

世界規模で見てみると、経済環境が厳しい中2023年のマレーシア経済は4.0%〜5.0%の範囲の水準で成長する見込みと言われています。雇用と所得の改善、長期の国家プロジェクトの実施により国内需要を中心とした成長に支えられるでしょう。

外国人観光客数も今後さらに増加する見通しであり、ホテルやショッピングモールなど観光関連に関するビジネスに大きく貢献すると予想されます。また、2023年8月に中国政府が海外への団体旅行を解禁。観光関連産業にさらなる追い風となることは間違いありません。

マレーシア中央銀行のダトゥ・シャイク・アブドゥル総裁は、「経済成長の見通しは世界経済の減速というリスクがある一方、観光業の活況や国家プロジェクトのスピーディな実施といったポジティブな要因も存在します。」と説明しています。

長期的な面のマレーシア経済の今後についても少し。ここ数年は安定的な成長を続けているマレーシア経済ですが、この経済成長の背景にはマレーシア政府の戦略的な長期ビジョンがあることが挙げられます。

1991年から始まった「VISION2020」でマレーシア政府は先進国の仲間入りを目指す計画を始動。そして、2019年に発表された「シェアード・プロスペリティ・ビジョン2030(SPV2030)」では2021年から2030年までの10年間の国家開発計画が組まれ、民族間、所得グループ間、地域間の格差解消を実現するために7つの戦略的推進力を活用することが示されています。

これらの長期計画のもとマレーシア経済は緩やかに成長を続けており、新しい商業ビルや大型建築物の建設など目に見える進展が見られます。

まとめ

今回の記事ではマレーシア経済の動向について、経済指標を用いて解説しました。

マレーシア経済は外部の要因に影響を受けつつも、国内需要の安定した成長に支えられており、外部需要とのバランスが今後の鍵とも言えそうです。また、インフレーションは緩和傾向で通貨価値は外部要因に左右される状況となっています。

今後の見通しについては引き続き穏やかな成長が期待されており、雇用・所得の改善、政府関連の長期プロジェクト、外国人観光客の増加などが良い影響を与えると考えられていますが、世界経済の減速などのリスクも考慮して外部要因を注視することが必要でしょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考サイト

https://www.bnm.gov.my/-/qb23q2_en_pr

https://www.dlri.co.jp/report/macro/271300.html

https://www.dosm.gov.my/portal-main/release-content/consumer-price-index-malaysia-sep-2023

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