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マレーシアにおける和牛市場の現状と見通しについて徹底解説 | ハラール和牛の将来性は?

食の輸出シーンでインパクトが大きい食材の代表例は、ズバリ「牛肉」です。

マレーシアを始めとする東南アジア諸国でも、所得の増加に伴い日本の和牛を消費できる層が増加しています。クアラルンプールの街中では、小売店や飲食店でJAPAN WAGYUと書かれたステッカーや販促物を見かけることが日常茶飯事となっていることからも、和牛がすでにマーケットに根付いていると言えるでしょう。

今回の記事では、マレーシアの和牛市場の現状と見通しについて徹底解説します。

マレーシアに存在する牛肉は全てハラール仕様

実はこの事実を知らない方が大半ではないでしょうか。マレーシアに輸入される全ての牛肉は、実は全てハラールの方式によって各国の食肉処理施設で処理されたものです。ちなみに、お隣の国シンガポールではハラール/ノンハラール牛肉を輸入することが可能という事情があるため、シンガポールを拠点とする飲食店の方がマレーシアに進出した際、ハラール牛肉の価格の高さに驚いたと聞いたこともあります。

日本で認可されたハラール食肉処理施設は現状二カ所のみ

ハラール牛肉として認証を受けるためには、マレーシアのハラール認証団体であるJAKIMが現地視察を経て認めた食肉処理施設にてムスリムにより処理された肉のみが、ハラール牛肉として輸出することが可能です。以前はこの認証を受けた食肉処理施設は日本国内に複数カ所ありましたが、現状は兵庫県・三田市と徳島県・三好郡の二カ所が承認されています。

マレーシアにおけるハラール和牛の実情

この四年間クアラルンプールで暮らしてマーケットを見ていますが、焼肉屋業態の進出は非常に増えています。日系オーナーを中心とした日本式焼肉屋の出店もクアラルンプールを中心にここ数年増加傾向。そしてローカル経営の店舗も街中で見かける機会が増えました。

弊社の取引先であるイスラム教徒がオーナー経営するハラル焼肉屋では、ハラール和牛をメインにしたおまかせコース・メニューを取り扱い、ローカルの高所得層から高評価を得ています。

特にクアラルンプールを中心とした市街地では大型モール建設需要が高く、2023年秋にオープンしたTRXやパビリオン・ダマンサラには日系の焼肉店がオープンしています。そして、この流れは今後も続くと予想されます。

徳島・宮崎・鹿児島が主流

上記の食肉処理施設に和牛を持ち込めばハラール和牛として取り扱われるのですが、現状ではマレーシアで見かける和牛の品種は「徳島・飛騨・宮崎・鹿児島」が一般的。マレーシアには日系/ローカル問わず、輸入商社が複数存在しているため競争も激しい聞きます。彼らの販売先は日系の焼肉店が主流。物流コストの関係上、通常では冷凍コンテナでの輸入ですが冷蔵や緊急の場合はエアーでの手配に切り替えたりと、臨機応変に入手できるインフラが整っています。

人気の部位

人気の部位はズバリ「ロイン」。サーロイン、リブアイ、テンダーロインというサシが入った人気の部位で主にステーキや焼肉に需要があります。その他の部位に比べても圧倒的に高価かつ需要がある部位のため、他の部位と抱き合わせのみで販売する業者もいます。

輸入者の強みを活かす飲食店

通常は輸入商社からハラール牛肉を仕入れる流れが一般的な商流ですが、飲食店自体が輸入者になる例もあります。一頭買いのメリットを享受しつつ、商売のリスクヘッジを考えて輸入したハラール牛肉を他の飲食店に卸販売することで商売の安定化を計っています。

先日訪れたムスリム経営の飲食店では、味付けをした牛肉やラム肉をコンロで調理し、その後冷凍保存をして他の飲食店に卸販売するという業務卸事業にも取り組んでいました。

ハラール牛肉の輸入や業務卸に対応できる企業は多くはありませんので、レストラン経営をする上でこのような事業のポートフォリオを取り入れるのは素晴らしいアイデアです。

マレーシアに上陸した「神戸ビーフ」

2023年夏、マレーシアにも神戸ビーフが上陸しました。実は過去に輸入されていたという事実がありながら、コロナ禍の影響を受け食肉処理施設のハラール認証も失効せざるを得なかったと聞いています。

現在、マレーシアではローカルの牛肉卸企業二社が神戸牛のインポーターとして登録されています。

実は神戸牛の輸入には障壁があり、輸入が簡単ではない事情があります。神戸牛の輸入や輸出をするためには、神戸肉流通推進協議会の神戸ビーフ指定登録店に加盟する必要があります。またメンバーになるためには既存会員からの推薦が必要など、厳しいルールが設けられています。

現在、マレーシアでは輸入卸の一社が経営する焼肉・ステーキレストラン「WAGYU DOJO」で販売されている様子がSNSで公開されています。

他国から輸入されるハラール牛肉

実はマレーシアで消費されている牛肉の大半は海外生産品で、その中でも圧倒的な量を誇っているのがインドの水牛である、ということをご存じでしょうか? 

牛肉と聞いた時に私達が想像するものはオーストラリア産が主流です。オージービーフは全てハラールに対応した食肉処理施設で処理された牛肉として有名です。日本へ輸出されているオージービーフも牛肉自体は実はハラールですが、日本国内で開封後の処理がハラール対応となっていないためハラールとして扱われることはまれです。

その他、マレーシアではウルグアイやアルゼンチン産などのハラールビーフも流通しており、味に関してはアメリカの牛肉に似ているという印象を受けました。

これからの成長が期待される韓国牛肉

マレーシアでは日本食と変わらないほど人気の韓国料理。ハラール/ノンハラールに対応した飲食店も多く、マレーシアに輸入される食品に関しては多くが韓国ハラール認証を取得しています。食のダイバシティー化に対応することでマレーシアでローカルのニーズをつかんでシェアを広げている印象です。

牛肉に関しては日本の和牛の知名度に軍配が上がりますが、最近では少しずつ韓国牛の流通も増加しています。HANWOOというブランドの牛肉で、最近ではKL郊外のBBQショップとコラボイベントを開催したようです。

価格は和牛と同様に高価格帯のようで、高所得層がターゲットになるとのことです。

HANWOOのHPはこちらから。

輸出者としての新規参入のチャンスは?

上述の通り、マレーシアには日本のハラール和牛を取り扱う飲食店が多いことから今後も輸出のチャンスがあるように見えますが、日本の輸出者と直接繋がっており、多くの販路を持つ輸入者が複数いるため新規の参入は厳しいというのが私の見解です。

需要がある部位は圧倒的にロイン系。それ以外の部位の需要は相対的に低いものの、提供する料理次第で一頭買いすることで全体的なコストを下げるという手法が一般的です。ロインだけを購入する場合は非常に高額になるのもありますが、ローカに手配を丸投げで依頼する場合は他の部位との抱合せでのみ仕入れ可能という場合もあるようなので多くの飲食店が頭を悩ましています。

仮に引き合いがあったとしても価格競争になる可能性が高いため、自社で現地に飲食店を出店するなど川上から川下まで商流をコントロールできる場合以外はおすすめしません。

まとめ

今回は、マレーシア和牛市場の現状と見通し、そしてハラール和牛の将来性について紹介しました。

ここ数年続いている日系/ローカル問わず和牛を取り扱う企業の出店需要から見ても、和牛のニーズは拡大し続けると予想されますが、輸出側の立場で見てみると、プレイヤーの多さによる価格競争や特定の部位に傾倒するニーズから生じる取扱い上の難しさなど、商売の軌道に乗せることは簡単ではなさそうです。

今後、日本国内でさらに多くの食肉処理施設がマレーシアJAKIMとの相互認証を取得することで、銘柄の選択肢増加による需要拡大や新規商流の開拓などチャンスが生まれていくことを願っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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