コラム記事
10.262023
マレーシアの食文化 | 民族共存で育まれた豊かな食文化とルール
多様性に富むことで知られるマレーシアのご飯。今回は多民族国家ゆえに育まれた特色のあるマレーシアの食文化について解説します。
目次
多民族国家マレーシアの食文化特徴
マレーシアという国を説明する際に必ず登場するキーワード「多民族国家」。マレーシアはマレー系、中華系、インド系を主とした三民族、そしてその他にミックスや先住民族の多民族で成り立つ国です。
その民族混在から生まれた豊かな食文化もマレーシアを語る際に欠かせません。以前こちらの記事にてマレーシアの四大料理とその特徴などを解説しました。
「多民族」、これは決してマレーシア国民だけに当てはまるキーワードではありません。マレーシアは就労や起業、留学、結婚、そしてリタイア滞在など世界各国から移住者が多い国ですが、宗教や民族、文化など幅広いバックグラウンドを抱えた人達がさほど不自由を感じずに食生活を送れる環境が整っていると言えるでしょう。
多民族・多宗教のマレーシアはそれぞれの信仰の決まりに合わせて暮らすために、ハラール/ノンハラールに代表されるようなルールを定めることで快適に暮らす知恵を築いてきました。食文化はその最たるものですが、それが結果的に世界中から訪れる外国人達が食を楽しみやすくなっていることにも繋がっています。
多民族で誕生した代表的マレーシア料理
多民族が共存をする中で融合に至った食文化の代表例を、ご紹介します。
ナシルマ
ココナッツミルクで炊いたご飯にピーナッツや揚げた小魚などを添え、甘辛いサンバルソースを和えていただくナシルマ。マレーシアの代表料理で必ず挙げられるご飯です。
このナシルマ、使用食材がココナッツミルクや甘辛いサンバルソースであることからも推察できるように、元は主にマレー系民族のご飯でした。手軽に豊富な栄養を摂取できることや昔はバナナの葉に包まれたおにぎりのようなお手軽ご飯だったこと、そしてやはりその美味しさから他民族も着目。いつしか中華系やインド系の人達も食べるようになり、今やマレーシアの国民的ソウルフードです。
とは言え、そこでもやはり民族それぞれの食文化は何かしら継承するマレーシア。基本形となるマレー系のナシルマに自分達の好みを取り入れていくスタイルを少しご紹介します。
まずは中華系。副菜のお肉は基本的にはマレー系が食べられる鶏肉や牛肉ですが、中華系のお店ではなんと豚肉も登場。中華系が多いエリアであるペナン島では、海に近い土地柄もあってか揚げ魚を添えるお店も多く見られます。これはマレー系のナシルマにはあまりないスタイルで、彼らの好みに合わせた進化系と言えるでしょう。
インド系はどうでしょう。マレー系と同じく辛さを求める彼らですから中華系と比べるとサンバルは辛めが主流ですが、マレー系よりも水分が多めのサンバルもよく見られます。そしてもう一つ、インド系レストランではベジタリアン仕様のナシルマを提供する店が多く見られること。これはベジタリアン率が高いインド系ならではの特徴と言えます。
チキンライス
マレーシアを訪れた方ならおそらく一度は食べるであろうチキンライス。茹でた鶏肉、そしてその茹で汁で炊く風味のあるご飯をたまり醤油と酸味のあるチリソースを薬味にしていただくご飯です。中国の海南島から伝わった当初は中華系の人達がいただくご飯でしたが、いつしか民族を問わず食べられるようになった代表的マレーシア料理です。
鶏肉はマレー系も食べられること、そしてその美味しさからもマレー系の人達がこのチキンライスを食べるに至ったことは、マレーシアの食文化から見て自然な流れだったのでしょう。今やマレー系のお店ではチキンライスをマレー語にした「ナシアヤム」の名称で親しまれています。
中華系のチキンライスはあっさりとした味わいであるのに対し、マレー系の場合は鶏肉にシナモンやハチミツなど彼らが好む甘辛い味付けがされ、スパイスの効いた濃い味のお肉に仕上がっています。揚げ物を好む彼らの嗜好なのか、スチームよりも揚げ鶏がメインとなることも多いです。
同じチキンライスと言いながら、ここまで異なる味付けが生まれるのがマレーシアの食文化の面白いところ。良い部分は取り入れる、取り入れることが難しい部分は自分達のスタイルに変えて楽しむ、これが特徴の一つでもあります。
宗教尊重が大原則。混在しないハラール/ノンハラール
食文化においてうまくお互いの良いところを取り込むことが上手な一方で、ルールの原則を譲ることはなくしっかりと線を引いて区別する、という面も持っています。
ハラール/ノンハラール
イスラム教が国教のマレーシアで最も意識する機会が多くなる、ハラールかノンハラールの区別。イスラムの戒律に則ったハラールの基準が存在し、外食はもちろんのこと、スーパーで売られる食材や生鮮品など、あらゆるものがハラールか否かという基準で分類されます。
例えばイスラム教ではない人達がハラールのものを食べる、買うことは何ら構いませんし日常的にある光景ですが、その逆でイスラム教の人達がノンハラールのものを取り入れる、ということはほぼありません。(※ノーポークやムスリムフレンドリーといった基準での許容は個人によります。)これに関しては人々の意識の中にしっかりと線引きがされています。
特にここ10年ほどのマレーシアは国としてハラールビジネスに力を注いでいる現状も合わせ、人々のハラールへの意識は上昇傾向です。そのためこれまでスーパーなどの店内で混在をしているケースがあっても、区分けの是正が行われることが増えています。
フードコートや屋台
マレーシア人の食文化に欠かせないフードコートや屋台。これらの区分けはとても分かりやすいものです。
先ほど、スーパーなどでハラールとノンハラールが混在するケースもあると述べましたが、ご飯を食べる場となるフードコートなどはお互いが交わらないシステムです。ハラールの食事を提供するフードコート、そして豚肉なども含めたメニューが提供されるノンハラールのフードコート、この二つは必ず敷地が別で違うエリアで点在しているか、仮に隣同士の敷地で並んでいても、厨房はもちろん座席も混在しないように作られています。
ハラールかノンハラールかを見分けられるのか?という疑問もあるでしょう。慣れればメニューを見れば分かりますが、慣れないうちは店内を眺めれば判断が簡単です。ハラールの場合はスタッフにヒジャブと呼ばれるスカーフを頭に巻いた女性がおり、お客さんも同じようなスタイルの女性がいることが多いです。一方で、ノンハラールのエリアにヒジャブを巻いた女性がいることはほぼ皆無です。(決してゼロではありませんが)
ショッピングモールのレストランやテナント
ショッピングモールが多いマレーシアですが、そこに出店するレストランなどもモールごとにハラール/ノンハラールの割合が大きく異なります。
エリアである程度同じ民族がまとまって居住するケースが一般的なマレーシア。そのためモールがあるエリアによってターゲット層が変わり、ハラールを求める顧客層なのか否かにも繋がります。
近隣にマレー系が多く暮らすモールでは9割近くのレストランがハラール対応。当然お酒もないため中華系や外国人などは積極的には入店しません。逆も然りで、中華系が多いエリアのモールはノンハラール店やバーなども多くなります。ノーポークやムスリムフレンドリーを掲げてマレー系を呼び込む店もありますが、そこは個人の判断となるため多くの顧客を得ることは難しいでしょう。
飲食事業進出をする際はこの事情の認識も重要となり、マレーシアだからハラール対応していればどこに出店をしても大丈夫、ではないことをご注意ください。
外資系大手チェーン店のダイバーシティ対応
マレーシアには多数の世界大手の外食チェーン店が進出していますが、スターバックスやマクドナルドを始め、そのほとんどがハラール認証を取得しています。
例えば日本と比較してみると、日本で世界規模の外食チェーン店がハラール認証を掲げて運営しているケースはほぼありません。そのため、日本では利用する側それぞれがメニュー等から成分を確認した上でオーダーする必要があります。
マレーシアではその確認の必要はなく、イスラム教徒はもちろんのこと他宗教やベジタリアンなどの人達にとっても、成分表示などに一定の基準が設けられているという点が安心ポイントと言えます。このようにマレーシアのダイバーシティ対応は非常に進んだものとなっています。
相互理解で成り立つマレーシアの食文化
マレーシア食文化の区分けについての説明だけを読むと、分けることを前提とした場しかないのだろうかというネガティブな感想を持つ方もいるかもしれませんが、マレーシアの食の場は決してそのような堅苦しい場ではないことも少しご説明しましょう。
多民族が混在するマレーシアでは、当然ながらビジネスやプライベートで様々な民族が一緒に食事をするシーンが多々あります。そして、さらに言えばマレーシア人は食べることが非常に好きで、食に対して貪欲な国民性であると感じます。そんな彼らは、それぞれの宗教や食文化は尊重しつつも食を大事なコミュニケーションの一つと捉え、上手に共存を図っています。
その象徴として挙げたいのが、民族を問わず交わされるマレー語の挨拶「Sudah makan?(スダ マカン?)」です。日本語にすると「ご飯食べた?」という意味でカジュアルな感じの文言に聞こえますがマレーシアでは一般的な挨拶で、実際に職場、友達、家族など様々な関係性の間で交わされます。本当に食べたのか気になって尋ねるケースもありますが、多くの場合は「元気ですか?」と同義の挨拶です。ご飯を食べたかどうかで相手の調子が良好かも含めてコミュニケーションを図る、といった具合です。
3にてご紹介したような、ハラール/ノンハラールなどのはっきりとした線引きの認識がある一方で、お互いの理解を深めるコミュニケーションの中心として食を重要視していることの表れが、このような挨拶に繋がっているとも言えるでしょう。信仰やそこから派生する生活スタイルは相容れることが難しい場合が多いですが、食文化は相互理解の努力で共存ができるという例を、ここマレーシアでは体感できます。
ちなみに、先ほどの「Sudah makan?」と挨拶をされた場合は「Sudah(スダ)」(済んだ)と返すと、相手に対して「元気です」と答えたと捉えられます。もちろん本当に空腹なら「まだ食べていません」と答えても構いませんが、その場合おもてなしが好きなマレーシア人達ですから、きっとたくさんのご飯やおやつがテーブルに用意されることになるでしょう。
まとめ
今回の記事では多民族の国マレーシアの食文化の特徴について解説をしました。
ハラール/ノンハラールについてはシステムがしっかりと構築されていて、イスラム教を国教としハラールビジネスのゲートウェイとしての地位も確立している国だけある、という感はあります。
と同時に、代表的なマレーシア料理からも分かるように、そのような環境の中でも多民族が一緒にご飯を楽しみ進化してきた歴史も感じられるマレーシアの食文化。今後も新たな食のシーンや需要が生まれていくことが予想され、ビジネスチャンスがある国と言えるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。